高レベル放射性廃棄物を題材とした授業研究
2022年度 エネルギー環境教育 「全国研修会」
日時 | 2023年3月5日(日)09:30~15:05 | |
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開催方法 | 対面とオンライン配信(Zoom) | |
開催場所 |
日本科学未来館 〒135-0064 東京都江東区青海2丁目3-6 |
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開催内容 | 09:30〜09:35 | 開会挨拶 |
09:35〜10:25 | 「第4回私たちの未来のための提言コンテスト」表彰式 | |
10:30~11:10 | 情報提供「地層処分事業における次世代層への取組みについて」 | |
11:10~12:15 | 研究・実践報告(セッションA・セッションB)6件 | |
12:55~14:20 | 研究・実践報告(セッションC・セッションD)8件 | |
14:30~15:05 | まとめ・閉会挨拶 |
全国研修会の様子
2023年3月5日(日)、日本科学未来館(東京都江東区)を会場に、NUMOが支援を行った全国各地の教育研究会による成果発表のための全国研修会を実施しました。「高レベル放射性廃棄物の地層処分を授業でどのように取り上げるか」をテーマに、授業研究やその実践などの報告を各地の先生方からいただき成果を共有するとともに、今後の課題を検討する機会として開催しました。各研究会が実践報告を行い、また、研究会同士の活発な意見交流によって、次世代層が高レベル放射性廃棄物の地層処分への関心を持ち、「自分ごと」として捉えられるような授業のあり方について、模索しました。
開会挨拶 NUMO 理事長
冒頭に、NUMO理事長の近藤駿介は、数多くの学校でエネルギー環境教育や、高レベル放射性廃棄物の処分を題材にした授業が行われたことに感謝の意を示しました。また、高レベル放射性廃棄物の処分は社会の持続的な発展に備えた長期にわたる事業で、社会に開かれた教育課程を追求する学校教育の中で、来年度以降も引き続き授業の題材として取り扱っていただきたいと参加者へ呼びかけました。
「第4回私たちの未来のための提言コンテスト」表彰式 当日の様子、受賞作品
NUMOが主催する「第4回私たちの未来のための提言コンテスト」の表彰式が行われました。「どうする?高レベル放射性廃棄物」をテーマに論文と動画で提言を募集した結果、22校から応募があり、358編の提言が寄せられました。
「中学生・高校生・高専3年生までの個人・グループ部門」から最優秀賞1名と優秀賞2名、「高専4年生以上、大学生、大学院生の個人・グループ部門」から最優秀賞1名と優秀賞3名が登壇し、表彰状を受け取りました。また、学校賞を受賞した5校の表彰も行われました。
続いて、各部門の最優秀賞の受賞者から提言のプレゼンテーションも行われました。
情報提供 NUMO 広報部長
NUMO広報部長の伊藤友宣から、最近のエネルギー事情・環境問題に関する情報提供や、NUMOの教育支援活動の報告を行いました。国民のエネルギー問題への関心が高まる中、高レベル放射性廃棄物の処分への取組みを現代的な課題として認識してもらうため、NUMOでは全国的な広報活動を行っていること、学校教育分野においても、多様な研究会への教育支援をはじめ、出前授業なども積極的に行っていることを報告しました。「高レベル放射性廃棄物の地層処分は学習指導要領に明記はされていませんが、主体的・対話的で深い学びにマッチするテーマ。ぜひ多くの先生方に取り組んでいただければと思います」と呼びかけました。
セッションA コーディネーター 加古川市立加古川中学校 山本 照久 校長
広島県の中学校の教員からは、中学3年生の理科と社会科の授業を横断した授業実践が報告されました。ベースロード電源にはどの電源が適しているか、廃棄物に着目しながら考える内容です。学級を4つの班に分け、ジグソー法を用いて課題を調査して情報を共有。各班が自分たちで設定した問いについて議論し、結論を出す形式で行われました。生徒は調査を通し、発電方法のメリットやデメリットだけでなく、いずれの発電方法でも廃棄物が発生して、その処分が必要なことを学びました。理科と社会科の教員が連携しながら授業を行いましたが、さらに時間をかけることでより深い学びになるのでは、という今後の抱負が語られました。
報告資料(PDF形式:9.0MB)
続いて、兵庫県の中学校の教員からは、学校の外部と連携した授業実践が報告されました。生徒がエネルギーに関する講演を聴く機会を設けたり、エネルギーに関するオリジナルの新聞を制作したりする実践が紹介されました。NUMO職員による出前授業で高レベル放射性廃棄物の処分方法について学んだあと、地層処分を題材とした教材の「誰がなぜゲーム」に取り組みました。生徒は、「政府」「専門家」「自治体住民」「その他の国民」という4つの立場に分かれて、それぞれの立場からの意見を話したり、反対意見にも耳を傾けたりと、合意形成の難しさについても学ぶことができました。今後は、さらに多くの情報を調べるなどした上で議論を行い、より深い学習にしていきたいと話していました。
報告資料(PDF形式:2.4MB)
また、北海道の2つの研究会が合同で研究・実践を行い、小学校5年生の家庭科の授業での実践を報告しました。暖房をよく使う北海道では、家庭内でも電気代の上昇に高い関心が持たれています。そこで、衣生活・住生活の単元の学習内容で、「暖かく快適に過ごす着方」と「暖かく快適に過ごす住まい方」というテーマで、暖房などを活用する前提となるエネルギー事情について考える授業を行いました。日本のエネルギー自給率や地球温暖化への影響などを学ぶことで視野を広げ、あらためて「寒い冬を快適に過ごすには?」という問いを自分ごととして実感するために、重ね着の工夫など、省エネにもつながる科学的な実験も行いました。
報告資料(PDF形式:6.2MB)
セッションB コーディネーター 琉球大学 濱田 栄作 教授
三重県の教育学部の大学生から、中学2年生の技術・家庭科の技術分野「エネルギー変換の技術と利用」の単元で、オリジナルで開発したボードゲームを用いてエネルギー問題を考える授業の実践が報告されました。生徒を「ある島のエネルギーを管理する電力供給の責任者」と設定し、発電設備を発展させながら島の電力の安定供給を目指す時間制限付きのゲームです。体験した後に、ゲームの内容を実際の日本に当てはめるとどのようになるか振り返り、様々な発電方法のメリット・デメリットや、廃棄物の問題を考えてもらう授業の構成が紹介されました。
報告資料(PDF形式:5.0MB)
続いて、青森県の中学校から、「エネルギー環境教育の今、これから」と題する提言がありました。安定したエネルギーを確保しながら、地球温暖化などの環境問題への対応をしなくてはならない難しい現状。再生可能エネルギーへの疑問、電気料金の高騰、原子力発電の再稼働といった諸問題を取り上げ、エネルギー環境教育の目指すべき方向性を提言しました。また、青森県の大学院生が、山形県と北海道の2校の水産高校での授業実践を報告しました。地層処分をテーマに、「大学院の研究者」と「学校の教員」が行った授業を比較・検証し、主体的・対話的で深い学びを促す授業に関する考察を発表しました。
報告資料(PDF形式:6.6MB)
沖縄県の中学校からは、「サイエンス部」による高レベル放射性廃棄物の地層処分を学ぶ様々な活動についての報告が行われました。2022年8月、北海道の神恵内村で開催された「中学生サミット in KAMOENAI」に参加し、さまざまな年代の参加者との交流や泊原子力発電所の見学、「私たちの未来のための提言コンテスト」への取組みを通じて、原子力発電と高レベル放射性廃棄物の処分について学ぶ過程が報告されました。登壇した生徒からは「Minecraft(マインクラフト)」を使用して、仮想空間で原子力発電所や地層処分場を建築する取組みを通じて、地層処分への理解が深まったとの報告がありました。
報告資料(PDF形式:11.6MB)
セッションC コーディネーター 島根大学 栢野 彰秀 教授
東京都の中学校と高等学校の教員で構成された研究会からは、中学校の理科の放射線教育を小学校・高等学校での学習と連携させる試みについての研究が発表されました。社会科、技術科、総合的な学習の時間を関連させたカリキュラム・マネジメントを検討した内容でした。また、広報活動として、研究会メンバーで山口県周南市の教員研修会に参加した様子や、有志の教員が集まって行った研修会「サイエンスカフェ・オンライン」についての報告がありました。放射線教育の必要性や、授業を行う上での工夫や相談事などを教員同士で話し合うことができ、充実した内容だったことが報告されました。
報告資料(PDF形式:3.1MB)
続いて、愛知県の中学校の教員から、中学2年生の放射線教育の授業実践が報告されました。教科書内の「放射線の性質」の項目について、教科書会社5社の記載を比較。仮説演繹的な授業展開を目指し、生徒と対話しながら、ある仮説となる理論を教科書から読み取り、その理論の立証方法や予測される事象を実験体験などから考察するという授業実践が報告されました。
報告資料(PDF形式:7.8MB)
また、島根県の義務教育学校からは、学校から10km圏内に立地している原子力発電所に関連して、高レベル放射性廃棄物の地層処分について考える授業の実践が報告されました。島根原子力発電所の現状を知るとともに、様々な発電方法の仕組みを模したモデルを通してその原理を知り、さらに高レベル放射性廃棄物と地層処分について学びました。その後、原子力発電所の今後の在り方と、高レベル放射性廃棄物の処分の今後のあるべき姿を議論しました。また、理科や社会科、総合的な学習の時間の授業だけでなく、「放射線から身を守るために」と題して原子力防災避難訓練の際にミニ授業を行うなど、様々な機会も活かす取組みが報告されました。
報告資料(PDF形式:6.6MB)
静岡の小学校の教員と大学院生からは、独自で開発した教材とそれらを活用した授業の実践が紹介されました。開発した教材は、放射線に関するすごろくとかるたです。これら2つの教材は、子どもたちの反応も良く、教材としての有効性が確認できたため、今後改良をしながらどの学年のどの学習内容と結びつくかの検討を進めていきたいという展望が提示されました。
報告資料(PDF形式:6.3MB)
セッションD コーディネーター 京都教育大学 山下 宏文 教授
富山県の義務教育学校と小学校の教員からは、「クロスカリキュラム」の取組みが2例報告されました。小学校・中学校の9年間の学びの連続性(縦軸)と、教科間の横断(横軸)の視点から、高レベル放射性廃棄物の地層処分をテーマに据えた授業を実現した実践内容でした。小学3年生の理科「電気の通り道」の単元と中学校の技術科「情報の技術」の単元のねらいを結びつけ、小中連携の大きな手掛かりになる実践例でした。さらに小学6年生の理科「人と環境」の単元と4年生や5年生の「ごみの処理と利用」「環境を守るわたしたち」などの単元と関連させ、「自分たちの生活の中でできることは何か」を考えながら学ぶことで、中学校以降の学習につなげていく実践が紹介されました。
報告資料(PDF形式:6.0MB)
北海道の研究会からは、高レベル放射性廃棄物の地層処分を授業で扱う際、授業のねらいを「地層処分について知る」から「地層処分について自分の考えを持つ」へ転換させるパラダイムシフトが提唱されました。児童・生徒が情報を収集する力や、論理的構造的に思考する力を発揮できる授業の構想でした。小学6年生時には、様々なテーマを「自給・環境・経済性・安全(3E+S)」の観点から考え、自分なりの意見について、科学的・社会的視点からの情報をもとに、前提や根拠の明確な主張ができる児童・生徒の育成ができるという一連の流れが提案されました。
報告資料(PDF形式:710KB)
続いて、宮城県の中学校からエネルギー環境教育トライアル校としての実践が報告されました。子どもたちが自ら電気やエネルギー、環境の将来を考えることで、ESD(持続可能な開発のための教育)やSDGs(持続可能な開発目標)につながる学習機会の創出を支援するエネルギー環境教育スキームを提案しました。「30年後のエネルギーミックス」を考えて生徒が発表する様子や、有識者のエネルギー教育の講演などを教員も受講し、生徒とともに学んでいく様子が紹介されました。中学生に有効だったことを実感し、今後、高校生や大学生、社会人にも広げて、学校教育と社会教育の境目までを見据えていきたいと今後の抱負が語られました。
報告資料(PDF形式:6.5MB)
福井県の高校からは、東京の高校生が制作した原子力発電をテーマにしたドキュメンタリー映画の視聴をきっかけに、生徒たちが開始した探究活動が紹介されました。県内の高校2年生1,882名を対象に「原子力に関する意識調査」を実施。原子力発電に対する教育提言などを分析した探究活動や地層処分の話を盛り込んだカードゲーム制作活動が紹介されました。また、様々な学校との交流も活発に行っており、会場の教員にも連携を呼びかけました。
報告資料(PDF形式:10.5MB)
まとめ
各セッション終了後は、それぞれのセッションのコーディネーター4名が壇上に上がり、2013年度から開始し10年を迎えたNUMOのエネルギー環境教育支援事業の今後の展望や課題が提示されました。研究的に取り組んでいる学校だけでなく、より多くの学校や先生に参加してもらうためにはどうしたらよいか、各コーディネーターから意見が出ました。「一度実践したことは、2回目も行って検証を行うこと」「全国各地で同じ課題に取り組んでいる先生や学校と連携すること」「若い世代の先生方に参加してもらうこと」などが提案されました。
閉会挨拶 NUMO 専務理事
NUMO専務理事の田川和幸は、開始から10年が経過するNUMOの支援事業に、全国各地から数多くの教育関係者の協力をいただいてきたことに感謝の意を表しました。今後もさらなる教育研究会への支援協力をはじめ、新たな教材づくりなどへの支援にも意欲的に取り組んでいきたいと話し、2022年度の全国研修会の閉会の挨拶としました。