Future Science Teacher Association 金沢緑会長
エネルギー・環境問題は未来を生きるための切実なテーマの一つ。子どもたちが、この問題を「自分ごと」として認識し、考える力を伸ばすには、教員側がエネルギー環境教育に関心を持ち、その輪を次世代につなげることがカギとなる。「Future Science Teacher Association(FSTA)」(金沢緑会長)は小学校を中心にエネルギー・環境問題について身の周りから考える力を子どもたちに育んでほしいと研究を続けている。教材や指導案を持ち寄り、活発な議論が行われている。
指導案を多面的に検討
2008年より広島県を中心に活動を始めたFSTAは、生活に密着したエネルギー・環境教育の実践を広めようと、月に1度の研修会を中心に活動する。11月に開かれた研修会ではエネルギー・環境教育で利用できる教材の検討を行った。
岩国市立玖珂小学校の角井深雪教諭は3年生の理科「電気の通り道」の発展学習として「豆電球にあかりをつけよう」を構想した。プログラミングツール「MESH(メッシュ)」を用いて豆電球を点滅させ、人感センサーと組み合わせて自動点灯・消灯の仕組みを体験させる内容だ。
参加した他の教員からは「豆電球をLEDにすると消費電力の差も比較できるのでは」「導線の長さを変えると明るさが変わる様子を見せられるのでは」など多面的な意見が飛び交う。実際に授業を行う前にさまざまな角度から検討できるのが同会の良さだ。
霧箱や測定器も登場
北広島町立芸北中学校の栗栖裕司教諭は中学3年理科の「エネルギー資源とその利用」の単元で、生徒たちに「ベースロード電源は火力発電・原子力発電のどちらに頼るべきだろう」を課題として7時間の授業計画を提案した。
エネルギー資源や物質を有効活用することを見出し、科学技術の発展の過程や科学技術が人間生活に貢献していると認識を深めるのが目標だ。
課題を議論する前までに各発電のしくみや長所と短所、エネルギー利用上の課題、放射線の性質と利用法、影響などを学ぶ。栗栖教諭は放射線を観察できるペルチェ冷却式の霧箱の活用を考えている。放射線の存在に気づけるようにするにはどのような工夫が必要か、予備実験の結果を共有していた。
三次市立十日市中学校の稲垣悠教諭は放射線測定器を使って線源となる鉱物の測定を試したり、原油を蒸留してできる重油、ガソリン、灯油などの標本セットを持参し全員で観察したりと会場は大いに盛り上がった。
教師も見て・触れて熱意を保持
「こうしたらどうなるだろう? 子どもはどう考えるだろうか? と先生たち自身がトライアンドエラーをくり返すことが授業づくりの意欲につながる」と金沢会長は言う。小学校で校長を務めた後、大学で教員養成にも関わる立場から、理科を教える教員には実際に手を動かし、実物を見てほしいと願っている。それが子どもたちにテーマを伝える「熱意」になるからだ。
同会では小学校1年から高校3年生までのエネルギー環境教育のカリキュラム案を3つの視点で整理している。
1つ目は学問レベルでの系統性のあるカリキュラム、2つ目は教科ごとの整理、3つ目はメインのテーマとの関連だ。研修会での授業提案も3つの視点に沿って構想するので、方向性にぶれがなく議論もかみ合う。また、年度が変わり、学年の受け持ちが変わっても、学年・教科に整理されているためスムーズに授業が組み立てられる。
エネルギーに関する理解をさらに深めるため施設見学も行う。これまで六ケ所再処理工場(青森県)や高レベル放射性廃棄物の地層処分技術を研究する幌延深地層研究センター(北海道)を訪問し研修した。原子力発電環境整備機構(NUMO)が開く研修会やシンポジウム・セミナーでは、海外の地層処分事業に関する情報や、国内で文献調査が始まった寿都町や神恵内村の人たちの話を聞くことができたのも収穫だったという。
生活に密着したエネルギー・環境教育を続けていくと、子どもたちは身の周りの事象と関連させながら思考力を発揮できるという。高レベル放射性廃棄物の処分方法を考えさせると、生徒は「(海洋投棄の場合は)メタンハイドレートの採掘などで海洋深層水も影響を受けるのでは」「(宇宙処分の場合は)小惑星探査機はやぶさ等に影響があるのでは」等といった普段の生活で得られた情報と関連付けて疑問を持たせることができる。「そこに別の視点を投げかけたり、新たな教材を提示したりするのが教師の役割。FSTAの活動を通して子どもたちの発想や探究の多様性を高めていきたい」と金沢会長は語る。
研修会で教材を持ち寄る