三重県理科・エネルギー教育研究会 平賀伸夫会長


エネルギー・環境問題は未来を生きるための切実なテーマの一つ。子どもたちが、この問題を「自分ごと」として認識し、考える力を伸ばすには、教員側がエネルギー環境教育に関心を持ち、その輪を次世代につなげることがカギとなる。三重県理科・エネルギー教育研究会(平賀伸夫会長・青山学院大学教授、三重大学名誉教授)は高レベル放射性廃棄物の処分を題材に独自の教材を作成し、授業研究を通してその効果を明らかにしている。切実な課題に対して意思決定させることが「自分ごと」化には重要だという。

理科と総合で用いる独自教材を開発

2009年に小中高の教員らを中心に結成された三重県理科・エネルギー教育研究会は、エネルギー教育の教材開発や授業づくりに力を入れてきた。理科教育の目的を「よりよく生きるため」と捉える同会にとって、生活との関連を重視しながら教えられるエネルギー教育は最適なテーマだ。

2015年度には青森県六ケ所村にある原子燃料サイクル施設や、高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究施設である幌延深地層研究センター(北海道)を見学した。原子力発電で使い終えた燃料のうち、再利用できるウランやプルトニウムを回収した後に残る高レベル放射性廃棄物の処分は、すべての国民が知るべき課題であり、義務教育の中で扱うべきだと感じたという。

こうした課題意識のもと、研究会のメンバーとともに原子力発電環境整備機構(NUMO)などから情報提供を受けつつ開発したのが、独自教材『自分ごととして考えるこれからのエネルギー教育』(平賀伸夫編著、三重大学出版会、2018年発行)だ。高レベル放射性廃棄物の処分に関する正しい知識の理解に加えて、複数回の話し合いと意思決定場面が設定されているのが特色だ。

指導計画は10時間の扱い。まず理科で教科書に準拠した電気エネルギーや放射線などについて学ぶ(4時間)。続いて総合的な学習の時間で高レベル放射性廃棄物について学び、その処分方法を決定する(2時間)。さらに地層処分について学んだ後、処分地選定で重視する要因を考え、仮想の7つの候補地の中から処分地を決定する(3時間)。最後に学習を振り返り、今後の自分を考える(1時間)。

計画中、意思決定は5回に及ぶ。「話し合い」をはさむことで、生徒は「なぜ、そう決めたのか」自分の意思に対する責任を実感できる。また他者の意思決定やその根拠を聞くことで新たな視点を獲得できれば、次の意思決定の質そのものも高まる、と考えたのだ。

意思決定場面が責任感を育む

平賀会長らは中学3年生を対象にこの教材を用いた実践を通して、生徒の出した意思の実態や、思考の変化、教材の効果を報告している(平賀伸夫・田中大樹「高レベル放射性廃棄物の処分問題を扱う教材の開発・利用と効果の分析」日本科学教育学会『科学教育研究』2019年)。

それによると、仮想の7つの候補地から処分地を決定させると、生徒は「地震(活断層)」や「火山」といった科学的な事項よりも、「人口密度」などの社会的な事項を優先して決める傾向が強く、話し合いの前後でも変化はみられなかった。

「生活との関連性が高く、自分が受けるデメリットを想像しやすい社会的事項が優先されたのではないか」と平賀会長は分析する。候補地選定の際に「地震(活断層)」や「火山」は国も避けるべき事項としているだけに、論文では意識のギャップを埋めるための説明の追加や活動の導入を検討する必要があると提起した。

教材の効果として、課題を「自分ごと」として考える意識の高まりがみられた。授業前後のアンケート結果を比較すると、処分地決定について「私たち自身が考えていかなければならない」を選択した生徒の割合が授業後に増えていた。また、意思決定の質の高まりもみられた。意思決定の際に記述した理由の数が授業後に増えた。より多面的に考えられるようになったことの表れだ。

高レベル放射性廃棄物の処分を扱った授業で生徒の意思決定や話し合いの様子、意識を定量的に分析した研究は多くない。この結果は今後、エネルギー教育をどう教育課程に位置付けていくかを考えるうえでも重要な示唆を与えるものといえるだろう。

会長の平賀伸夫はこう語る。「高レベル放射性廃棄物の処分は日本が抱える重大な問題。高レベル放射性廃棄物はすでに日本に存在するのだから、今後の原子力発電の動向に関係なく、今あるものは処分しなければならない。また、この問題は長期にわたり取り組む必要があるため、次世代を担う子どもたちに、ぜひ伝えていきたい。その際は知識を活用して意思決定する場を設けて、知識を生きて働くものにしてほしい」。

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『自分ごととして考えるこれからのエネルギー教育』