北海道大学エネルギー教育研究会 森山正樹教諭(札幌市立白石中学校)
子どもたちにとって、エネルギー・環境問題は未来を生きるための切実なテーマの一つ。課題を「自分ごと」として認識し、未来を考える力を伸ばすには、学校の授業が重要な役割を果たす。「北海道大学エネルギー教育研究会」に所属する森山正樹教諭(札幌市立白石中学校)は、中学3年の理科で「電源構成」を取り上げる。正解のない問題に対峙する資質・能力を高めるため、地層処分の文献調査にも触れ、生徒に自分なりの意見を持ち、表現することを促している。
ブラックアウトの経験を教材化
中学校の「エネルギー」に関する内容は、理科や社会科、技術・家庭科などで実生活と結び付けて扱うことができる。中でも理科は、科学的な根拠を元に生徒が自らの考えを深められる教科だ。
白石中学校の森山教諭は今学期、中学3年理科「エネルギー資源とその利用」において、発展的な内容も含めた11時間の実践に取り組んでいる。
授業で大切にしているのは、生徒が「学ぶ必然性がある」と感じられる授業にすること。エネルギー教育においても「なぜ」「どうして」と生まれた疑問を解決するため、データや資料により事実認識を深め、自分の考えを練り上げていくプロセスを重視する。
実践は2018年の北海道胆振東部地震により起きた「ブラックアウト(全域停電)」を起点に10年後の北海道の電源構成を考える内容だ。当時の経験を生徒に想起させた後、資源エネルギー庁が作成した副教材『わたしたちのくらしとエネルギー』や、北海道電力、原子力発電環境整備機構(NUMO)が提供する資料を積極的に活用して日本のエネルギー事情を学んだ。
すると、「ブラックアウトはどのように起きたのか」が解き明かされていく。北海道の電源構成が化石燃料に依存している現状や、電気を常に使えるようにするには電力の需要と供給のバランスが重要だということに生徒は気づくのだ。
発電方法のバランスを科学的に考える
エネルギーや電力に関する事実認識を深めたうえで、実践の後半では10年後の冬の北海道における電源構成の立案に挑む。既習事項を根拠に、政府の「第6次エネルギー基本計画」なども参考にしながらグループで討議する場を設定した。
その際、各発電方法の長所や短所に加えて、1kWhあたりの発電単価やCO2排出量、24時間の使用電力量を示す「電源ロードカーブ」など、客観的なデータを活用しながら自分なりの考えを固めていくようにしている。他の生徒の意見を聞いて納得できる点があれば自分の考えを変えても構わない。
「冬の北海道の厳しい電力状況を乗り切るためには、それぞれの電源の長所を生かしたエネルギーミックスの考えが必要だという、広い視野から未来のエネルギーの使い方を判断できる資質・能力を身に付けてほしい」と、森山教諭は期待している。
単元の最終段階では発電に伴う「ごみ」問題を扱う。化石燃料を燃やす火力発電は二酸化炭素が、太陽光発電では約25年で劣化する太陽光パネルが廃棄物となる。原子力発電においては高レベル放射性廃棄物の処分が課題だ。
どの発電方法においてもごみが発生すること、そして「自分たちが使う電気を作る際に出るごみは、自分たちで対処しなければならない、という意識を持たせたい」と森山教諭は語る。
高レベル放射性廃棄物の処分方法である「地層処分」については、道内の寿都町、神恵内村で「文献調査」が行われていることも伝えたい考えだ。
文献調査とは、地域固有の文献やデータを収集し、明らかに処分場に適当でない場所を除外する調査だ。並行して地域の方に地層処分を知っていただく場が設けられている。生徒にとって発展的な内容であるため、NUMOが作成した地層処分を解説する動画や中学生向け教材を用いる。また、放射線源を地下に埋めた場合のモデル実験を開発し、その放射線量を計測する実践も行う。
実践前は放射線に良くない印象を持つ生徒が多かったが、実践を重ねるごとに科学的なデータに基づき客観的に判断する生徒が多くなった。生徒が自ら学習課題を探し解決していく姿を見て、「主体的に学習している」と手応えを感じている。
生活実感に結び付く問いかけで創造力へ
「子どもたちは特定の発電方法や、地層処分に“賛成”か“反対”かに染まっていない中立な存在。正しく学習すれば偏らず柔軟に考え判断する力を持てる」と森山教諭は話す。
一方で、中学生にとって「エネルギー」の概念を獲得するのは簡単ではない。知識を獲得するだけでなく、小さな疑問でも生徒から引き出し、生活経験と結びつけて振り返らせるなどの工夫がいるという。
森山教諭は毎時間の学習の振り返りシートや単元の学びを振り返る自己評価カードを作成し常に問いかけることで、生徒に新たな未解決の疑問を発見させ、深い考察を導けるよう働きかけている。
研究会では、森山教諭をはじめ各学校でのエネルギー教育の実践を検討する場を設け、教材研究や専門家から話を聞いて情報収集に積極的に取り組む。森山教諭は全国規模の研究会での発表や受賞経験が豊富で、その授業構想力が高く評価されている。子どもたちが夢中になる授業を創る秘訣は「子どもの学びを深める教材はないかと考える知的好奇心を、教師自身が持ち続けて探究すること」と話している。
10年後の冬の北海道の電源構成を考える