九州地区エネルギー環境教育実践研究会
エネルギー・環境問題は未来を生きるための切実なテーマの一つ。子どもたちが、この問題を「自分ごと」として認識し、考える力を伸ばすには、教員側がエネルギー環境教育に関心を持ち、その輪を次世代につなげることがカギとなる。鹿児島県立霧島高校の冨ケ原健介教諭が代表を務める九州地区エネルギー環境教育実践研究会は、小学校から高校までの教員を中心に約40名が参加する。年数回開催する研究会では実践を持ち寄り、南九州を中心とするエネルギー環境教育のすそ野を広げようと活動している。
豊富な情報提供で知見を深める
九州地区エネルギー環境教育実践研究会は、2013年に原子力発電環境整備機構(NUMO)が福岡で開催した「エネルギー環境教育教職員セミナー(九州)」への参加を契機に、それまで南九州で個々にエネルギー環境教育に取り組んできた教員らの連携組織として発足した。
藤本登・長崎大学教育学部教授の指導を得ながら、小中高の各校種でエネルギー環境教育の研究と実践を共有して推進する。校種や年齢、職種、性別にかかわらずフラットに接することがモットーだ。発足から9年が経ち、より広い視野でエネルギー環境教育を捉えることができている。
8月11日に開かれた研究会では、現在、鹿児島県の埋蔵文化財担当である中学の社会科教員が参加。発掘された縄文式土器の拓本の作り方が披露され、その拓本や土器自体からSociety1.0(狩猟社会)の生活様式を読み取り、その時代におけるエネルギーのあり方を考察して知識を広げた。他にも、教育に還元できるようさまざまな取り組みを続けている。
この日は、藤本教授を招き、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が発行した「ウクライナ・ロシアレポート」を解説してもらった。ロシアのウクライナ侵略を発端としたエネルギー市場の動向や安定供給に与える影響が示された。合わせて九州電力管内や他の管内の電力使用量、発電電力量を紹介するなど、授業づくりのヒントになる情報が提供された。
このように、最新のエネルギー動向や他分野の知見を授業に活かしていこうという前向きな雰囲気は、エネルギー環境教育にこれまで触れてこなかった教員や授業づくりに関心を持つ若手教員を大いに惹きつけている。最大の研究テーマである高レベル放射性廃棄物の地層処分についても、NUMO職員から基本的な情報を解説してもらうなど、正しい科学的な知識を伝える研鑽を欠かさない。
社会科や機械科でも実践
一方で、立ち上げの初期メンバーを中心に、高レベル放射性廃棄物の地層処分を授業でどのように指導できるか、試行錯誤が続いている。
指宿市教育委員会学校教育課の山下信久課長は、鹿児島大学教育学部附属中学校時代から社会科の公民的分野で実践を重ねてきた。
ある年は「新しい団地にごみステーションを作る場合、どこに設置するのがよいか」を話し合い、ある年は「新型コロナウイルス感染症と地層処分問題に共通するものは何か」などを生徒に考えさせた。
答えが一つではない場面や状況を導入として、その後で地層処分の問題を考える流れが定番だ。生徒から出た意見や疑問などをもとに、山下教諭が課題や論点を示して「さあ、ここからは自分たちで考えよう」とオープンエンドな授業で終わらせている。
霧島高校の冨ケ原教諭は「生徒の多くは卒業後、進学や就職などで都市部に出ていく。その時の視点を狭くしないために、社会課題について高校生のうちに触れさせたい」と話し、機械科でも実践を続ける。
地層処分候補地の住民や国民、専門家、政府の4つの役割を生徒に割り振り、処分地決定までの合意形成を体験できるグループワーク「誰がなぜゲーム」(開発/野波寛・関西学院大教授)を3年生に実施してきた。体験後、考えたことや気づきを自由記述で記入させた。
生徒は「どこが一番安全で被害が少ないかがあまりよく分からなかったが、原子力発電を減らすことのリスクもあると思った」「多数の意見が少数の意見を押し切るかたちになると思うが、話し合い、一人ひとりが意見を出す大切さは捨てるべきではない」「合意形成することはとても難しいと思ったが、先延ばしにするのもだめだと思った」など、自分の考えをしっかり書けるという。
毎年、生徒の反応や感想は同様になるが、論点を整理し、矛盾を示して生徒への問いかけを繰り返すことで考える力の育成につながるとの思いを強くしている。
授業実践は毎冬、研究会で持ち寄って報告する。今後は資料や授業案をクラウドに置き、情報共有の効率化を図りながら研究を推進したい考えだ。
8月11日に開かれた中学校研究部会「社会科を元気にする会」