目次
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冒頭、2025年1月23日に東京で開催した対話型全国説明会における不適切な発言について、主催者である経済産業省首席最終処分政策統括調整官 畠山陽二郎、原子力発電環境整備機構(NUMO)理事長 山口彰からお詫びを申し上げたのちに、シンポジウムを開会しました。
開会の挨拶(ビデオメッセージ)
主催者として武藤容治 経済産業大臣がビデオメッセージにてご挨拶を申し上げました。
経済産業大臣の武藤容治です。本日は、原子力発電環境整備機構及び資源エネルギー庁が主催する「あなたと一緒に地層処分を考えるシンポジウム2025」にご参加いただき、誠にありがとうございます。私も本日参加することを楽しみにしていたのですが、残念ながら所用によりお伺いできないため、ビデオメッセージの形でご挨拶させていただきます。
日本を取り巻くエネルギー情勢は大きく変化しています。
ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化により、エネルギー価格の高騰、化石燃料調達の不確実性が上昇するなど、我が国のエネルギー需給構造の課題が改めて浮き彫りになっています。
また、我が国が製品などの輸出で得た外貨の大部分を化石燃料の輸入に充てており、国富の流出につながっています。エネルギーは国民生活や経済活動の基盤であり、安定供給が損なわれることがあってはなりません。化石燃料への過度な依存から脱却し、危機にも強いエネルギー需給構造への転換を進めていくことが重要です。
今後、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やGX(グリーン・トランスフォーメーション)の進展による電力需要の増加も見込まれる中、脱炭素電源の確保が国力を左右します。脱炭素電源を拡大し、経済成長や産業競争力の強化を実現できなければ、雇用の維持や賃上げも困難です。再生可能エネルギーか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、再生可能エネルギーと原子力をともに最大限活用していくことが重要です。
原子力を利用していく上で、高レベル放射性廃棄物の最終処分は避けては通れない課題です。これが本日のシンポジウムのテーマです。我が国には、過去50年以上の原子力発電の利用に伴い、既にガラス固化体換算で2万7,000本相当が存在しています。
そして、この処分は、恩恵を受けてきた現世代が必ず解決しなければなりません。
現時点で実現可能な唯一の処分方法である地層処分の実現に向け、取り組みを進めることが我々世代の責任であり、将来世代に先送りすることはできません。この思いを胸に、2000年の最終処分法の制定以降、政府としても1歩ずつ取り組みを前に進めてまいりました。
現在、寿都町、神恵内村、玄海町の3つの自治体において文献調査を実施させていただいております。本日ご登壇の寿都町の片岡町長をはじめ、文献調査を受け入れていただいた地域の皆様に心より感謝と敬意を表します。
特に、北海道の2つの自治体では、現在、文献調査報告書に関する法定の理解プロセスを実施しています。北海道では、「特定放射性廃棄物の持ち込みは慎重に対処すべきであり、受け入れ難い」とする条例が制定されており、鈴木北海道知事は、「概要調査への移行について、条例の趣旨を踏まえて現時点で反対」との立場を表明しておられます。国としては、調査を受け入れていただいた地域の皆様に加え、道内の皆様のご理解を得るべく、引き続き丁寧に対応してまいります。
一方で、最終処分は北海道や佐賀県だけの問題ではありません。社会全体で向き合う必要があります。本日ご参加の皆様には、本シンポジウムをきっかけに、北海道や佐賀県の地域の方々がこの問題に真剣に向き合ってくださっていることを知っていただくと共に、電気の利用者の1人として、ぜひこの問題を深く考えていただきたいと思っています。
確かに、最終処分の問題は解決が難しい課題です。
諸外国も30年以上にわたり、試行錯誤を繰り返しながら処分地の選定を進めてきました。我が国においても、地域の声に丁寧に向き合い、全国で理解を深めるための活動を1歩1歩粘り強く進めていく、これ以外に道はありません。
我々世代が各々の立場、専門性、経験を生かし、それぞれの責任を果たすことで、この最終処分の問題も必ず解決できます。そのことによって、原子力を利用していくことへの国民の皆様の安心につながる、私はそう信じています。政府としても、従来の政策にとどまることなく、取り組みの強化をさらに進めます。
最後に、本日のシンポジウムが皆様にとって実りあるものとなり、最終処分の実現に向けた新たな一歩となることを祈念し、ご挨拶とさせていただきます。
第一部
基調講演:
地層処分事業について思うこと
日本郵政株式会社 取締役兼代表執行役社長 増田 寬也氏より、県知事を務めた経験から自治体の行政と地層処分との関わり方について、そして国の審議会である放射性廃棄物ワーキンググループ委員長の任に就いていた知見も踏まえて、講演いただきました。
廃棄物を資源として循環利用すること
県が処理をする産業廃棄物、市町村が処分をする一般的な家庭ごみにおいて、以前は分別が充分とはいえなかったが、ごみに対する社会的意識の変化とごみの処理技術が向上したことで、有価物、資源として活用するためのごみの合理的な処分方法が確立されてきた。最近では、ごみの処分場が単なる焼却場ではなく、「資源循環センター」と呼ばれるケースが全国各地の自治体でも多く見受けられる。

原子力発電の使用済燃料の処分においても、同じような考え方ができるかもしれない。現在最も有効な処分方法と考えられている地層処分は、300メートル以深の安定した岩盤に埋める処分方法。
使用済燃料から核分裂をしていないウランやプルトニウムを取り出して燃料として再利用し、再利用できない5%程度の高レベル放射性廃棄物をより安全性の高いガラス固化体にしてから処分をする方法である。
この再利用は、技術の進歩によって家庭ごみからアンモニアやメタン、液肥などの有価物を取り出し、畑の肥料として再利用が可能になったことと似ている。
処分事業で先行し、最終処分場の建設が完了しているフィンランドは、使用済燃料を再処理せずそのまま埋める直接処分を選択。一方、資源が少ない日本では再処理が有効と考える。日本には現時点で、再利用していない使用済燃料の総量が1万9,000トンほどあるといわれている。これはガラス固化体にして約2万7,000本に相当。現状でガラス固化体として存在しているのは2,500本程度である。原子燃料サイクルを回すことで使用済燃料の体積を4分の1程度に減容化、有害度低減期間も12分の1ほどに低減できるため、処分地面積が限られる日本ではこの方法が最適と考える。
政府、NUMOの計画は、そのガラス固化体を4万本以上収容できる施設を、日本に1ヶ所建設するというもの。
地層処分の必要性
原子力発電については賛成、反対の両方の立場があっても、使用済燃料は現実に多くが存在しており、他国に委ねたり、宇宙に放り出したりすることはできない。また、将来世代に押し付けるのではなく、現世代が責任を持って、処分方法を考えていく必要がある。一方で、科学技術は日々進歩しているため、将来世代がさらに有効な処分方法を選択できるように、処分場閉鎖まではガラス固化体を取り出して、別の選択肢を取ることができるようにする「可逆性」や「回収可能性」を必ず担保すべきである。
地層処分は、地上での能動的な管理に依らず、安全面での必要性を満たすことができ、科学的、技術的に信じるに足る唯一の長期的解決策である。人的な管理に依らない最終処分を目指すことが、将来世代に過度な負担を残さないことにつながる。


スウェーデンの事例

2011年に、フィンランドに次いで地層処分事業が進んでいるスウェーデンの施設を視察し、たくさんの示唆をいただいた。スウェーデンでは、処分地の適地を選定するために、最初に全国でボーリング調査を開始。首都のストックホルムの地下も候補地に挙がったというが、科学的知見の開示が不十分であったことから反対運動が起こり候補を外れた。
1992年以降に、日本の「科学的特性マップ」に相当する総合立地調査による資料を作成し、公募の手挙げ方式や申し入れ方式による処分地選定プロセスを経て6自治体が調査を受け入れた。さらなる調査等の後、2つの自治体が最終候補に挙がり、1箇所に決めるための誘致合戦の末、2009年にエストハンマル自治体のフォルスマルク市に決まった。先ごろ、同地で最終処分場の建設が始まったと聞いている。こちらもフィンランドと同様に直接処分を採用。原子燃料サイクルを利用しガラス固化体による処分を予定している我が国とは異なる。
情報公開の重要性
最終処分地の選定は、地域の理解があってはじめて動くもの。だが、地層処分についての専門的知識がなければ、国が決めたこととして、議論する場に地域住民が参加できなくなってしまう。
原子力は専門性が極めて高いこともあり、専門家や関連事業者、担当者など限られた人だけの間で議論が進められてきたように思う。北欧に比べると、情報公開の面と意思決定への住民の参画が充分でない。
スウェーデン視察の際に当地の最終処分事業の担当者から、日本は経済産業省、NUMO等数多くの機関に責任が分散化し、最終的な責任をどこが負うのかが分かりにくいという指摘を受けた。スウェーデンでは処分地を決めていくために、情報公開の透明性を重視した広報活動を徹底していた。スウェーデンでもいわゆるNIMBY(=Not In My Back
Yard:国レベル、社会全体では必要な施設だと認めても、自分の裏庭のような近くに設置されることには反対する姿勢)の問題はあったが、審議会、議員、公務員、NGO等が参加する委員会を毎月開催し、議論を深めていったと聞いている。議論の際、強い賛成と強い反対の二極化が進み、中間層は議論から離れていった。この極論のぶつかり合いを避けるため、より小さな単位で集会を開き、場合によっては1軒1軒を訪問して説明して回ったという。そのように丁寧な活動を15年も続けることで、最初は議論が紛糾していても、徐々に対話が噛み合ってきたとのこと。また、住民との合意形成、パブリックアクセプタンスを成功させるためには、透明性の高い情報公開に加え、規制当局や自治体の実施主体が各役割に徹すること、そして政府への高い信頼感が不可欠とも話していた。 政府への信頼感については、北欧の国々が高度な社会保障の仕組みを確立している実績もベースとなっているように思う。
科学的特性マップの活用
最終処分地の候補を選定するにあたり、現在、市町村に相当な負担がかかっている印象がある。その負担を少しでも低減するために、地層処分に関した地域の特性を客観的に整理し日本列島上に表す「科学的特性マップ」が有効だと考える。北欧をはじめ他国の例を鑑みても、まず10〜20箇所を候補に挙げ、そこから詳細な検討を行い絞っていくことが公平な選定方法だと考える。そのうえで、国から申し入れを行い、責任を明確化する必要がある。
地域の理解と活性化のために
全国には人口減少、産業衰退などの問題をかかえる自治体が多い。生産年齢人口の増加を目指す必要がある。最終処分に関わる事業が、次の成長につながるような価値を生み安定的に雇用の場を提供することはできないかと思っている。
調査を受け入れていただいた3つの自治体(寿都町、神恵内村、玄海町)の町村長は大変重い判断をしていただいており、この尊い判断、決断は尊重されるべきである。
一方、知事も大変難しい判断を迫られている。当該市町村以外の市町村や県民すべてが必ずしも賛成しているわけではない。NIMBY問題をどのように解決していくべきか、市町村長、知事は悩み苦悶していると想像する。
現状では自治体が背負う負担、責任があまりにも大きいのではないか。ここは国がより前面に出て取り組む必要もあるように思う。
地域住民の社会保障の維持、風評被害の対策など、解決すべき課題は多岐にわたる。ゆえに、経済産業省だけでなく、例えば風評被害については農林水産省が、社会保障については厚生労働省がその対応に当たるなど、国が全面的に責任をもって取り組んでいくことが必要であると考える。また、原子力規制委員会は安全面について、もっと関わりを深めても良いと思う。
第二部
パネルディスカッション:
地層処分事業を進めていくために
地層処分をテーマに、遠藤氏をモデレーターとしてパネリスト4名によるパネルディスカッションを行いました。概要をご紹介します。
モデレーター
- 遠藤 典子早稲田大学 研究院 教授(以下、遠藤氏)
パネリスト
- 増田 寬也日本郵政株式会社 取締役兼代表執行役社長(以下、増田氏)
- 片岡 春雄寿都町長(以下、片岡氏)
- 辻 愛沙子株式会社arca代表取締役/クリエイティブディレクター(以下、辻氏)
- 畠山 陽二郎経済産業省 首席最終処分政策統括調整官(以下、畠山氏)
文献調査に応募した思い
遠藤氏: 本シンポジウムは、地層処分の問題が地方自治体だけの課題ではなく、国民全体の課題であるということを象徴したイベントになるのではないかと思う。文献調査に応募した寿都町長、経済産業省、講演をいただいた増田氏、若者世代を代表して辻氏に、今日は自由闊達な議論をしていただきたい。まず、寿都町の片岡町長に尋ねたい。2020年の10月に文献調査に応募、11月から調査が始まったが、この文献調査に応募した思いについて伺いたい。
片岡氏: 応募にいたるまでの経緯を簡単に紹介する。町長に就任(2001年)した当初、三位一体の改革における地方交付税削減の影響もあり、財政はさらに厳しさを増していた。「稼ぐ行政」を目指し、財源確保のため風力発電事業に着手。当時、赤字運営の道立病院の移管支援金を運営に充てたり、私や議員の歳費を削減したり、職員にも協力をお願いしながら試行錯誤を重ねて議会から賛成をいただいた。
そもそも面積に比例する地方交付税は、面積の小さい寿都町にとって充分ではない。住民サービスのための足りない財源は、稼いで確保するほかなかった。ふるさと納税の活用もそのひとつ。最初、私はふるさと納税に反対だったが、町の産業振興に貢献できるということで考えを変えた。職員が頑張ってくれたおかげで利益も出て財源確保につながった。他にも風力発電の電気の固定価格買取制度を活用することで一定の利益を確保できたが、20年で買取価格は保証されなくなるため充分な利益が確保できなくなる。
持続可能な町づくりのため、風力発電以外のエネルギー事業について対策を講じていくなかで、議会と産業団体との勉強会があり、そこで放射性廃棄物の最終処分が議題にのぼった。反対はあったが、一石を投じてこの問題を全国に浮上させないと議論は進まないという思いから、処分地候補に名乗りをあげるべく議会に投げかけた。
勉強会では反対は少なかったが、報道の影響もあり、賛成5と反対4ぐらいに拮抗し、議会で判断を仰ぐのは難しい状態となった。反対運動も起こり、住民説明会でも冷ややかな反応が多かった。放射能の怖さを強調する風評被害や地域の分断など、ネガティブな報道が多かったことも影響しているように思う。説明会も何度となく行ったが、最終的には町長である私の責任で文献調査に応募した。
遠藤氏: 国のエネルギー政策に寄り添う姿勢での重要な決断でありながら、地域住民からの様々な反対の声があったという当該地域の苦労について、我々はもっと知らなければならないと改めて思った。
北欧での対話の例
遠藤氏: 首長経験者である増田氏に、住民との対話の難易度の高さを理解したうえで、乗り越えるための知見を伺いたい。
増田氏: 処分問題を扱う諸外国のすべてが例外なく、反対運動や挫折を味わっている。
世界で最も先行するフィンランドでさえ、30年以上かけてようやく処分場の試験操業にたどり着いた。それだけ極めて難しい問題だ。候補地の住民はどうしても受け身にならざるを得ず、原子力に関する専門的なロジックだけ説明しても理解はなかなか得られないと思う。
信頼に足る組織であると認めてもらうことが必要。国やNUMOなどが、調査して得た情報を分かりやすく、時間をかけながら丁寧に説明する対話の場を増やしてくことが大切である。
スウェーデンでは、月1回議論の場を設け、答えにくい質問も避けることなく答えてきたと聞いている。透明性、公開性を高め、覚悟をもってこの問題に当たることが不可欠と考える。
若い世代として
地層処分について思うこと
遠藤氏: 東京出身、東京育ちの辻氏に伺う。辻氏たちの世代は、原子力発電による安価な電気の恩恵をあまり享受できていないと思う。東京から離れた場所で文献調査が行われているが、地層処分についてどのように思うか。
辻氏: 私は1995年生まれのZ世代の始まりの世代。失われた30年を生まれてから経験し、様々な社会問題への取り組みやSDGsにも関心を寄せ、SNS等で発信する人が少なくない世代かと思う。将来への漠然とした不安を感じてきた世代とも言える。原子力発電に関しても、他の世代と同様強い賛否の声がSNSの中でも見受けられる。ただ、原発に対する賛成、反対の声はあっても、地層処分の問題に関しては、まだまだ知られていない。原発の賛否それと分けて考える必要があるのではないかと思う。
SNSを中心に情報を入手、発信することが日常的に行われている世代にとって、自分にとって不都合な情報に触れることなく、知らず知らずに「フィルターバブル(ネット利用者の過去の閲覧履歴などから、各人に最適化されたコンテンツが表示されることで、似たような情報や考えに囲まれてしまう情報環境のこと。)」の中に身をおいてしまうこともある。
一方で賛成、反対の極論は拡散しやすく、例えば動画投稿サイトの動画の冒頭3秒で強烈な表現で言えば言うほど拡散されやすい。情報の流れ方や接し方次第で、危うさを感じる。本来は、賛成か反対かという論点ではなく、高レベル放射性廃棄物がすでに存在するという事実を、知らしめることが大切かと思う。
先日、福島第1原子力発電所へ視察に行ったが、都会で電気があって当然の便利な生活を送っていながら、処分問題で苦悶する自治体の存在を知らなかったという、無自覚でいることの暴力性を痛感している。また、地層処分に関わる将来についても考えてみたい。文献調査が2年、概要調査が4年、さらに精密調査が14年と順調に進んでも20年以上になる。30歳の私が50歳になってしまうことを考えると、どうしても将来の想像がしづらく曖昧に流してしまいかねない。この長い時間のスパンを意識して向き合うことも重要。
遠藤氏: 地層処分はいわゆる100年事業。
現在のすべての世代が、問題のリアリティをどのように理解していくかは大変難しい。
とはいえ、冒頭武藤大臣がおっしゃったように、資源の輸入依存を減らすことが、今後の国力を左右するが、地層処分事業は、その意味でも現在進行形の問題であると思う。
地層処分事業を進めるための要望
遠藤氏: それでは今後どうしていけばよいか。寿都町は文献調査が終了し、調査内容の法定説明会を行っているところであるが、片岡町長に意見をいただきたい。地域住民との対話における葛藤、北海道知事との意見の相違などもあり、町長の負担も大きいと感じるが、改善点や国への要請等、今後の進め方についての考えを伺いたい。
片岡氏: 処分地の応募方法について、私の経験から意見がある。手挙げ方式も、申し入れ方式も、やめたほうがよいと考える。いずれの方法も市町村長や知事は相当のバッシングを受ける。首長が簡単に受けられるはずがない。その為、文献調査から概要調査までは、国の責任において行うべきだと思う。
増田氏がおっしゃっていたが、「科学的特性マップ」を有効に活用し、10〜20箇所に協力を依頼し調査を進めていかないと、入口段階で頓挫してしまい先送りされ続けるように思う。
一存で応募したため、私自身は何があっても我慢できるが、町民には賛成、反対問わず迷惑をかけてしまったと反省しており、お詫びしたい。今のままで事業を進めていくと、各地の住民に寿都町民と同じようなわだかまりを持たせることになりはしないか。原子力発電所が再稼働したとしても、処分地が決まらないままだと高レベル放射性廃棄物が行き場を失ってしまい、すべての原子力発電所が止まってしまうことになる。とんでもないことだ。国会議員、知事、市町村長、県議会、道議会の責任のある人が一堂に会して、この問題に対して真正面から取り組もうと声を上げることが必要かと思う。一人二人で声を上げるより、格段に効果があるように思う。
地域住民の方々の
理解を深めるための国の取組み
遠藤氏: それでは国の関わり方について、経済産業省の畠山氏に伺いたい。色んな取り組みをされていると思うが、どのような進め方をしてきたのか、今後の方針も含めて説明をお願いする。
畠山氏: 将来世代に先送りできない国家的課題に対し、困難を乗り越え、文献調査を受け入れていただいた寿都町、神恵内村、玄海町の皆様には、改めて感謝を申し上げ、あわせて敬意を表したい。
概要調査地区の決定や最終処分地の決定等は、無論、国が最終的な責任を負うべきだと自覚している。一方で、自治体に対して、「科学的特性マップ」を根拠として一方的に申し入れをしても必ずしもうまくいかないのではないか。
やはり地域住民の方々の理解を一歩ずつ得ていくことが大切だと考える。また、地層処分の適した地質状況の分布を、日本列島上に分かりやすく示すために2017年に作成された「科学的特性マップ」は、全国民に処分問題について考えるきっかけにしてもらいたいという意図もあった。
さらに一昨年から、全国の自治体首長を個別に訪問する全国行脚を始めた。1年半で182の自治体を訪問し、ほぼすべての首長から最終処分の必要性について理解をいただいている。それでも自身の地域で調査実施ができるかは、熟考が必要であるとの意見が多いが、文献調査に関心を示す自治体もある。ちょうど先ごろ、寿都町と神恵内村の文献調査における報告書が取りまとまったところ。これをきっかけに少しでも理解を深めていけるよう、全国行脚の個別訪問に加え、各所での説明会、あるいは本日のようなシンポジウムなどの取り組みを重ねていきたい。
首長の負担を下げる
遠藤氏: 随分と事業が進んでいる印象がある。
自治体、国、それぞれの利益は必ずしも一致しないかもしれないが、NIMBY問題もあるなか、どんなことが歩み寄りのきっかけになると思うか。首長経験者の増田氏に伺いたい。
増田氏: 全国行脚のような地道な訪問対話も大切ではあるが、どこかの時点で、候補地を挙げて対話を行うようなプロセスを明確化するような進め方に変更することが必要だと思う。水面下で非公表のまま進めていると、不透明な印象を受けてしまうかもしれない。
一方で、理解の土壌が整っていない段階で「科学的特性マップ」だけを頼りに、国が一方的に申し入れをするのは丁寧さに欠ける。
「科学的特性マップ」をさらにブラッシュアップして申し入れの内容を整理し、ある程度準備が整ったら公表するという、次の段階に進むべきではないか。ガラス固化体の運搬を考慮すると、やはり沿岸部が好ましいと思うが、ある程度の数が揃うことで、首長の意思決定のハードルも下がる。
遠藤氏: 調査地点の数を増やしていくという点について、畠山氏の考えを伺いたい。
畠山氏: 片岡町長の話からも、手を挙げること、国からの申し入れを受諾することが、いかに責任の重い決断であるかが理解できる。国からの申し入れは今でもできるが、自治体での理解を高めた上で国からまとめて申し入れる。あるいは自治体、国の双方が互いに一歩出る形で申し入れをすることによって、負担が軽減できるような解決の方法を追求していく必要がある。
地層処分事業のコミュニケーション
遠藤氏: 国全体の問題として周知していくために、コミュニケーションの課題にどんなことがあるのかを辻氏にお聞きしたい。
超長期にわたる事業のため、現世代にとって想像しにくいとのコメントもあった。地層処分の実情が世の中に知れわたっていないという理解は一致していると思うが、これを打開する方策について、コミュニケーションのプロの視点から意見を伺いたい。
辻氏: 原子力発電に反対か賛成かという話題の熱量があまりに大きいためか、高レベル放射性廃棄物の地層処分の必要性を論じるだけで、原発賛成派と見られるのでは、という懸念を持つ人が少なからずいるのではないか。
そもそも我々の世代から見ると、原発について「何故お手洗いのない家を建ててしまったのか」と疑問に思う。
すでに建ててしまっている現状ではあるが、お手洗いのない状態で自分の家で過ごせるのかという疑問を持つことも重要だと思う。
一方で、処分場を自分の住む町につくることについては、別のフェーズとなってしまう。50年後か100年後かはわからないが、どこかひとつの自治体に「物理的な負担」を強いてしまうことがあるなら、せめて「精神的な負担」はさせたくはない。そのためには、現在手を挙げている3つの自治体において、反対や賛成についての意見の相違から生まれる住民の分断や軋轢といったネガティブな状況など、リアルな現状を知ることが大切だと思う。ひとつの自治体が批判的な意見を抱え込まないように、国民全員も一緒に批判の声を背負い、考えていけたらよいと思う。
また、情報の発信方法でいうと、膨大な情報が溢れる現代において、単純に公開しているから知ってもらえている、公開しているから知る責任がある、というスタンスでは通用しない。インスタグラムやTikTokなど、SNSのツールを世代に合わせて活用することが大切。
膝を突き合わせての対話ももちろん重要だが、多様な手段でこの問題を若い世代に広く訴え、媒体に合わせた発信の努力を重ねることが必要かと思う。
総括
遠藤氏: 100年事業とはいえ、政策担当者や事業者は、対象地域の住民、もしくは国民に寄り添いながら、一歩一歩丁寧に合意形成を進めていくべきだと改めて思った。
増田氏の基調講演の中で「資源循環センター」という言葉があったように、最終処分において様々なイノベーションがある。そんな技術革新において国にはダイナミックなチャレンジを進めてもらいたい。
また、国民の重要な課題でありながら、対象地域に経済負担がかかることについては、国民が負担をシェアできるような合理的なシステムの構築も国が考えるべき仕事のひとつだと思う。 本日のような議論は、今後も国民の声を聞きながら継続的に行っていただきたい。
閉会の挨拶
最後に、原子力発電環境整備機構(NUMO)理事長 山口彰がご挨拶を申し上げました。
本日は「あなたと一緒に地層処分を考えるシンポジウム2025」に、多くの方々のご参加、オンラインでのご視聴をいただき、心より感謝申し上げます。 高レベル放射性廃棄物の地層処分という重要な問題について、基調講演やパネルディスカッションを通じて登壇者の方々から貴重なご意見をいただき、多くの国民の皆さまに地層処分のことを考えていただけるきっかけとなる大変有意義なシンポジウムになったと考えております。
この問題に真正面から取り組んでいる寿都町、神恵内村、そして北海道の皆様、九州は玄海町、佐賀県の皆様に感謝と敬意の念を表したいと思います。
今後も地域の皆様の思いに寄り添いながら、地層処分について知っていただき、かつ考えていただく機会をつくるための対話や理解活動に真摯に取り組んでまいります。
ご参加・ご視聴いただいた皆様には、改めて御礼申し上げますとともに、本日の学びや疑問点を周囲の人々と共有し、ぜひこの問題について共に考えていただきたいと思います。
本日はありがとうございました。