原子力と最終処分に関する日本・フィンランド共同セミナー

「原子力と最終処分に関する日本・フィンランド共同セミナー」


開催日:2018年4月12日(木)

 原子力と最終処分に関する日本・フィンランド共同セミナー

原子力発電に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分は、原子力を利用する全ての国に共通の課題です。地層処分は高レベル放射性廃棄物を最終処分する最も合理的な方法であると国際的に認知されています。
フィンランドでは、2000年にエウラヨキ自治体の議会が最終処分場の受け入れを決定したことから、2001年に国会が原則決定を承認し、エウラヨキ自治体のオルキルオトが世界で初めて最終処分地に決定されました。2016年末から世界に先駆けて高レベル廃棄物の地層処分場の建設が開始されています。
今回、日本の経済産業省資源エネルギー庁、原子力発電環境整備機構(NUMO)、フィンランドの雇用経済産業省、Posiva社(ポシヴァ社;フィンランドの地層処分の実施主体)、Fortum社(フォルタム社;フィンランドの電力会社)が共催して「原子力と最終処分に関する日本・フィンランド共同セミナー」を開催しました。
セミナーでは、日本、フィンランド両国の原子力分野における経験と教訓に関する講演に加え、フィンランドで先行する放射性廃棄物処分の取り組みについてパネルディスカッションが行われました。当日は、約130名の方々が聴講されました。

以下、講演およびパネルディスカッションの概要をご紹介します。

 

>当日の模様(映像)

 

 当日のプログラムとスライド資料

 

「原子力と最終処分に関する日本・フィンランド共同セミナー」

 開催日時 2018年4月12日(木) 13:00~17:30

 場  所 建築会館ホール(東京都港区)

 

開会挨拶

13:00~13:10

 日本:大串 正樹 経済産業大臣政務官
 (代読:竹谷 厚 資源エネルギー庁国際資源エネルギー戦略統括調整官)

 フィンランド:ヤリ・グスタフソン 雇用経済産業省事務次官

 

第一部 両国での経験の共有

13:10~13:40 気候変動とエネルギー政策の概要

 日本:中西 友昭 資源エネルギー庁需給政策室長  資料PDF(1.3MB)PDF

 フィンランド:テッポ・トゥルッキ フィンランド大使館参事官  資料PDF(3.9MB)PDF

13:40~13:55 原子力政策と国民理解

 日本:若月 一泰 資源エネルギー庁原子力立地政策室長  資料PDF(0.9MB)PDF

13:55~15:30 最終処分政策の推進(パネルディスカッション)

(モデレータ)竹内 純子 国際環境経済研究所理事

(パネリスト)

 日本:

  辰巳 菊子(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会常任顧問

  伴 英幸  NPO法人 原子力資料情報室共同代表

  那須 良  資源エネルギー庁放射性廃棄物対策課長

  近藤 駿介  原子力発電環境整備機構(NUMO)理事長  資料PDF(1.2MB)PDF

 フィンランド:

  ミカ・ポホヨネン Posiva Solutions代表取締役社長  資料PDF(5.9MB)PDF

  ユッシ・ヘイノネン STUK放射性廃棄物・保障措置規制担当課長

  リーサ・ヘイキンヘイモ 雇用経済産業省エネルギー課副課長

 

第二部 原子力の責任の構築(フィンランドの事例)

15:40~16:00 フィンランドの原子力発電 稼動、プロジェクト、許可申請

 リーサ・ヘイキンヘイモ 雇用経済産業省エネルギー課副課長  資料PDF(1.9MB)PDF

16:00~17:15 個別事例について

・Fortum社(電力会社)

 サミ・ハウタカンガス 原子力サービス 使用済核燃料・廃棄処理サービス部門長  資料PDF(2.0MB)PDF

・Posiva社(地層処分の実施主体)
 ミカ・ポホヨネン Posiva Solutions代表取締役社長  資料PDF(9.8MB)PDF

・STUK(原子力規制機関)
 ユッシ・ヘイノネン 放射性廃棄物・保障措置規制担当課長  資料PDF(1.0MB)PDF

・VTT(技術研究センター)
 マッティ・パルヤッカ エネルギー部門顧客担当マネージャー  資料PDF(1.4MB)PDF

・FinNuclear Association(フィンランド原子力産業協会)
 ラウリ・ムラネン 会長  資料PDF(0.5MB)PDF

17:15-17:30 両国代表者による議論のまとめ

 日本:近藤 駿介 原子力発電環境整備機構(NUMO)理事長

 フィンランド:ユッカ・シウコサーリ 駐日フィンランド大使

17:30 閉会

 

 開催挨拶

 

日本:大串 正樹 経済産業大臣政務官
 (代読:竹谷 厚 資源エネルギー庁国際資源エネルギー戦略統括調整官)

竹谷 厚 資源エネルギー庁国際資源エネルギー戦略統括調整官

日本では、昨年7月に政府が科学的特性マップを公表し、政府とNUMOで対話活動を全国各地で行っている。世界で一番早く処分場の建設に着手したフィンランドの事例があるように、最終処分は解決不可能な問題ではなく、受入地域に雇用や経済面でプラスの影響をもたらす可能性もある。フィンランドの事例から前向きな力強いメッセージを感じ、それぞれの立場で今後の取組を考えるヒントにしていただきたい。

 

フィンランド:ヤリ・グスタフソン 雇用経済産業省事務次官

ヤリ・グスタフソン 雇用経済産業省事務次官

気候変動は国際社会の重要課題であり、原子力発電が二酸化炭素の排出削減に寄与するという 国際的な共通認識と安定的なエネルギー供給の観点から、フィンランドも原子力発電を必要としている。2016年に日本政府と締結した戦略的パートナーシップでは、原子力分野での協力も掲げており、安全確保や技術確保等で、今後の相互の協力による有意義な成果を期待する。

 

 第一部 両国での経験の共有

 

【気候変動とエネルギー政策の概要】

 

中西 友昭 需給政策室長

中西 友昭 需給政策室長

エネルギー政策の要諦は、安全性を前提とした上で、エネルギーの安定供給を第一とし、経済効率性の向上による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合を図るため、最大限の取組を行うことである。日本のエネルギーミックスは、現状、石油や天然ガスはほぼ輸入で、原子力発電の割合も震災前の26%から2%に減少し、エネルギー自給率は8%である。一方、2012年に導入した固定価格買取制度(FIT)により、再生可能エネルギーの割合は15%まで増加した。しかし、この賦課金が約2兆円にのぼり、1家庭あたり686円/月の経済負担となっている。更に、供給が不安定な太陽光発電にはバックアップ用の火力発電が必要であるが、FITによるサポートを受けて太陽光発電等の限界費用ゼロの再エネ発電が増加する中で、太陽光・風力をバックアップするために必要な火力発電等の長期的な設備投資を促す環境整備が課題となっている。温暖化対策として原子力発電を利用している国もある中、日本では現在7基が稼動している。しかし、日本の温室効果ガス削減目標(2050年度に80%削減を目指す)の実現が厳しい状況。今後のエネルギー政策については、エネルギー情勢懇談会や基本政策分科会で議論を開始しており、また、エネルギー基本計画についても見直しの議論を実施している。

 

テッポ・トゥルッキ フィンランド大使館参事官

テッポ・トゥルッキ フィンランド大使館参事官

気候変動に対する温室効果ガス抑制手段として、天然資源への依存低減に加え、スマートエコノミー、スマートシティ、再生可能エネルギーなど、新たな取り組みが必要。フィンランドの世論調査では、国民の過半数が、気候変動は現実的な脅威であり、すぐ行動すべきとの意見である。また、石油火力に賛成が2割、石炭火力に賛成が1割と、国民は化石燃料に否定的である一方、再生可能エネルギーは約9割が賛成、原子力発電は6割が賛成と原子力に賛成の人が多い。フィンランドでの原子力発電への理解は、80年代の反対運動ののち、90年代には技術的な信頼が得られ、最終処分も安定的にできると考えられるようになった。最終処分場がエウラヨキに決定した要因として、オープンな議論と、規制当局の厳しい安全要件や信頼性と独立性、責任所在の明確さがあげられる。特に規制当局が理解活動に尽力したことも寄与した。

 

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【原子力政策と国民理解】

 

若月 一泰 原子力立地政策室長

2018年4月時点の日本の原子力発電所の状況としては、18基が廃炉決定、19基が審査中、7基が稼動中である。日本では、再稼動のプロセスとして、原子力規制委員会の審査への合格、避難計画の策定、ご地元の理解の3つを経ることとなる。

若月 一泰 原子力立地政策室長

原子力発電所の再稼動に関する世論調査では、反対が賛成の2倍~3倍であり、この事実を重く受け止めている。その上で、現在、国では、

  • 1.草の根での対話・広報活動
  • 2.デジタル時代に対応した、新しい、ウェブ上での情報発信
  • 3.海外の先進事例を、アジアの政策立案に活かすための、新たなワークショップ
  • 4.地域社会と密接に対話する「プラットフォーム」の構想

に取り組んでいる。原子力発電はCO2排出の抑制という利点などもあり、こうした利点も含めて事実に基づいて発信し、丁寧に議論をしていきたい。

 

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 最終処分政策の推進(パネルディスカッション)

 最終処分政策の推進(パネルディスカッション)01

竹内氏がモデレータを務め、パネリスト7名によるパネルディスカッションが行われました。
概要をご紹介します。詳細は動画をご覧下さい。(参加者の肩書き等はプログラム参照)

 

竹内氏

竹内氏

まず、日本とフィンランドより、両国の最終処分事業を説明いただく。その後、いくつかのテーマごとに日本のパネリストからフィンランドに質問する形で、フィンランドの取り組みをお聞きしていく。

 

近藤理事長

昨年、「科学的特性マップ」が公表された。これは、火山や活断層の近傍であるか否か、地下に鉱物資源があるか否か等を整理し、地層処分において好ましくない特性の程度に応じ日本地図を塗り分けたものである。これを受け、ウェブサイトによる情報提供や学習活動の支援を行い、全国各地で、国民の皆様にこのマップや地層処分の社会的意義及び安全性などを説明し、ご意見を伺う対話型の説明会を国と共催している。これらを通じ、事業の在り方を一緒に考えていただき、NUMOが共生の相手として信頼できるか見極めていただくことが大事と考えている。

 

ポホヨネン氏

フィンランド政府は、2000年に候補地決定、2020年初めに処分開始という計画を1983年にたてた。2000年にエウラヨキ自治体が処分場の受け入れを決定したため、政府が原則決定を行い、2001年にこの原則決定を国会が賛成159票、反対3票、棄権37票で承認し、オルキルオトを最終処分地と決定した。議会承認の決定的な論拠は以下。

  • ・最終処分が一時貯蔵に頼るよりも、良い解決策である
  • ・廃棄物の回収可能性は維持しておく
  • ・現世代が責任をもって放射性廃棄物を受け入れる

ポホヨネン氏

エウラヨキ議会は拒否権を有していたが、2000年の投票結果では、賛成20票、反対7票であった。また1999年の処分場受け入れ可否に関する世論調査は、他の地区では賛成の人の割合が3割だが、原子力施設があるエウラヨキとロビーサでは賛成の人の割合が6割であった。2017年に、エウラヨキおよび新規原子力発電所を建設する地区(ピュハヨキ)に対し実施された、信頼性に関する調査では、8割がSTUK(原子力安全規制機関)を信頼し、Posiva社は2番目に信頼できる企業であった。成功のために重要なことは以下の3つである。

  • ・信頼と透明性;信頼を得るには時間がかかり、信頼を失うのは一瞬である。
  • ・独立性と信頼性のある規制当局;信頼されているSTUKの意見を国民が注目している。
  • ・原子力企業に対する良い認識;原子力産業が長期にわたり、透明性のある健全な事業を行い、地域の雇用創出、事業税の納税などに寄与し、人々の高い信頼を得ている。

 

放射性廃棄物問題に取り組む基本的姿勢

 

ヘイキンヘイモ氏

ヘイキンヘイモ氏

フィンランドの原子力発電は、長期にわたる安全運転の実績があり、更なる安全性向上対策の実施やSTUKの積極的な取り組み等も、原子力発電が国民から信頼されている要因である。1983年には廃棄物管理の原則があり、事業者が廃棄物処分費用を担うと認識されていた。30年以上にわたる透明性のある議論や、批判への謙虚な姿勢も、国民に受け入れられた要因である。一方、批判的な人々もまだいるが、彼らは情報や議論を求めており、今後も謙虚に取り組むことが重要である。

 

ヘイノネン氏

80年代よりSTUKも長期に渡って廃棄物管理の計画に関わっており、様々なステークホルダーとの対話に積極的に参加し、国民との対話の担い手にもなってきた。Posiva社と安全性の議論もしているが、共通の解を見出すのではなく、共通の理解をするということである。技術は単純ではなくその取り組みも簡単ではない。しかし特に新技術などについては、実施主体を含む全てのステークホルダーで議論し、様々な安全性の理解をすることが重要である。処分場を受け入れた人々も、どのようなリスクがあるかわからないことで、今後、誤解や不安感を持つこともあると思われるため、これからも人々とより良いコミュニケーションを取る必要がある。

 

辰巳氏

辰巳氏

(質問)日本では、事業者から放射性廃棄物処分を含めた原子力事業のライフサイクルを事前に知らされていなかったと自分は感じているが、フィンランドでは人々にどのような説明がなされているか。

 

 

 

ヘイキンヘイモ氏

(回答)ライフサイクルは政治、許認可、事業者、地元自治体と各レベルで考えられている。政治レベルでは原則決定という原子力発電所の設置に関する重要な段階があり、国民も十分理解している。認可レベルでは建設・運転・廃炉の認可がありライフサイクルを網羅している。高レベル放射性廃棄物処分の国の基金へは電力会社に拠出義務があると国民も認識している。現在の基金は総額26億ユーロである。処分は10万年と長期であるが、長期の安全性についてはセーフティーケースで何が起こるか分析し、安全性についてもオープンな議論を地域と行っている。

 

ヘイノネン氏

(回答)学校では放射性廃棄物について教える義務はなく、小学校のエネルギーの授業で何をどう教えるかは先生次第となる。発電所には学べる教室があり、対話型のビジターセンターでも誰でも学べる。政治的な原則決定では原子力発電所の建設を決定する際に、廃棄物処分を含めたライフサイクルについて、国会や地方議会、メディア、NGOでも議論され、政治的決定が行われる。

 

伴氏

伴氏

(質問)福島の原子力発電所の事故以降、日本では、脱原子力の世論が7~8割あり、まず原子力から撤退して廃棄物の問題を考えるべきという声がある。フィンランドで同様の状況だと仮定した場合、そのような世論にどう答えるか。

 

 

ヘイノネン氏

(回答)フィンランドの経験で話すが、全て信頼がベースとなる。信頼性向上は時間を要するが、信頼にたる情報をどう発信するかが重要。フィンランドでは事業者や実施主体が情報提供を行うとともに、規制当局も、地域社会や政治家、メディアに対し、積極的に情報発信や対話活動を行っている。メディアの意見を変えようとせず、正しい情報を提供し続ければ、理解が深まることにつながる。反対や賛成の立場に関わらず情報収集した事実をベースとすることが良い。

 

那須氏

那須氏

(回答)原子力発電所をまず止めるべきとの意見もあるが、既に相当量の放射性廃棄物がある以上、現世代が責任をもって廃棄物処分を行う必要がある。

 

国民理解、プロセスのあり方

 

ポホヨネン氏

関心を持たないステークホルダーへのアプローチとして、環境影響や社会影響という捉え方でのアプローチが有効と考える。また各関係者の役割や責任を明確にした情報提供が重要である。

 

伴氏

(質問)フィンランドでは計画当初から廃棄物の処分量を明確にしているが、日本はなぜ明確にできないのか。

 

近藤理事長

(回答)各国の政策決定には歴史があり、フィンランドの政策も曲折を経て徐々に決まってきたと理解している。日本では早い段階から高レベル放射性廃棄物処分の研究を行い、その後成果を得て2000年に地層処分の方針が決まった。またライフサイクルについては、電力会社や原子力委員会がその時々に、社会に説明していたと思うが、これからも当然きちんと説明していくのだと考える。

 

辰巳氏

(質問)フィンランドと日本では地層の特徴が異なるが、フィンランドの知見が日本でどのように活かせると考えるか。

 

ヘイノネン氏

(回答)その地区の地質等の環境を考慮した設計や安全評価を行う必要があり、フィンランドの処分概念を他国がそのまま使えるわけではないが、対話や検討のプロセスには類似性がある。廃棄物の放射能レベルも千年、一万年と着実に下がっていくという説明も同様にできるものである。

 

那須氏

(回答)日本と異なりフィンランドでは氷河の影響を考慮する必要があるなど、各国ともそれぞれの特徴がある。長期の事象については、安全性について現在わかっていることと、今後研究を進めるものと分けて丁寧に説明する必要があるのではないかと思う。

 

地域共生について

 

ポホヨネン氏

エウラヨキ自治体とPosiva社やTVO社が良好な関係を築き、維持している要因は、1970年代より、当時としては珍しいのだが、人々と対話するという手法を取り入れ、現在も継続している点である。また、反対する方の意見を変えようとするのではなく、中立な立場で、情報を隠さず事実を伝える姿勢も、良好な関係を築く要因となっている。

 

竹内氏

(質問)事実を伝えるために会合を開催しても、強い反対派や強い賛成派しか来ないのではないか。

 

ヘイノネン氏

ヘイノネン氏

(回答)フィンランドでも強硬な反対派が会場を独占することもあった。しかし現在では、様々な媒体による情報提供が可能となった。また、自治体には拒否権があるため、地元の人々それぞれが、責任感と高い関心を持って、会合に熱心に参加するのである。

 

伴氏

(質問)日本では原子力関連施設の立地地域が、廃棄物を県外に出すよう政府に要求する例があるが、なぜ原子力発電所の立地地域のエウラヨキは廃棄物の受け入れに賛成したのか。

 

辰巳氏

(質問)経済効果が直接ないエウラヨキにおいて、過半数が処分場に賛成なのは、元々住民ではなかった多数の原子力関係者が回答しバイアスがかかっているためではないか。

 

ポホヨネン氏

(回答)8割以上の従業員が発電所の周辺地区に住んでいる。また現時点ではPosiva社は原子力施設を所有せず多額の納税はしていないが、処分場の建設が進むことによりエウラヨキは将来的な税収を見込めると判断したのかもしれない。

 

ヘイノネン氏

(回答)前述の調査でのバイアスの有無はわからない。ただ実施主体も規制当局も、安全な地層処分の実現に努めることを第一優先としたし、フィンランドやスウェーデンでは原子力発電所の立地地域は、原子力施設になじみがあり、リスクや、税収や雇用などの便益も理解している。強い拒否権がある彼らが処分場を受け入れたその大きな理由は、国や実施主体に対する信頼が高かったからである。また歴史から学べる例として、エウラヨキは発電所の建設時には、廃棄物の受入を拒否していたが、その後、考えが変わり受け入れに転じた。同様に原子力発電事業に新規参入のフェノヴォイマ社も当初、廃棄物は地域外に出すと発言していたが、現在は地域と再協議している。

 

竹内氏

フィンランドは、事前の計画と柔軟性とでうまくバランスを取っているように見える。関係者の努力の積み重ねの結果であろうか。

 

近藤理事長

近藤理事長

各国の今日の姿には様々な歴史や経緯がある。日本では共生という前に、福島での事故の教訓を踏まえ、NUMOが安全な地層処分を行える組織であるとして信頼される必要があると考え、努力している。その上で、処分事業のインフラが地域社会の生活の質の向上に貢献することが共生の基本と思っている。また、地域の誇りとなる日本で唯一の象徴的なものを処分場のマーカーとして設置することなども個人的には考えている。但し、それらの決定主体は地域社会であり、候補となった地域と協議していくことになる。

 

会場からの質問


質問

現在の原子力発電のPA(Public Acceptance)は反対する意見をひっくり返そうとする一方的な啓蒙活動に見える。まずは放射性廃棄物だけでなく、核燃料サイクルや核不拡散、エネルギー安全保障など、原子力全体の問題を、反対派の専門家も交え議論しないと、対話が成立しないと思うが、どのように考えているか。

 

近藤理事長
NUMOの事業は地層処分に限られるが、専門家を交えた討論も今後の情報発信や対話活動の一環として検討している。

 

ポホヨネン氏
一方的なPAと見られることへの助言としては、事実に基づく情報提供が重要である。また規制当局のSTUKや実施主体のPosiva社などの複数の箇所から情報発信してきており、人々が様々な所から情報収集ができるようにしている。意見を変えようとするのではなく、あくまで人々が自ら判断できるようにすることが大事である。

 

那須氏
本日はフィンランドから、信頼を構築することの重要性や人々の考えを変えようというのではなく事実を伝えていくことの重要性などを学ばせていただいた。我々も専門家のディスカッションなどを通し、事実をお伝えし、皆さんに共に考えていただけるような取り組みを行っていきたい。

 

竹内氏
これまでのパネルディスカッションの議論では、フィンランドが地球温暖化に大変注目していることが非常に印象的だった。またフィンランドの事例を聞き、消費者の責任という観点では、我々国民も受身ではなく積極的に情報を知ろうとする努力が必要だと感じた。

 

 最終処分政策の推進(パネルディスカッション)02

 

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  第二部 原子力の責任の構築(フィンランドの事例)

 

第二部では、フィンランドの原子力発電や放射性廃棄物処分の状況について、政策やプロジェクト、研究開発などさまざまな観点から、ご紹介いただきました。以下に概要を示します。詳細データは当日資料をご覧下さい。

 

【フィンランドの原子力発電 稼動、プロジェクト、許可申請】

 

リーサ・ヘイキンヘイモ 雇用経済産業省エネルギー課副課長

リーサ・ヘイキンヘイモ 雇用経済産業省エネルギー課副課長

現在稼動しているオルキルオト1、2号機、ロビーサ1、2号機が国内の電力の3割を発電しており、福島の事故を鑑みた安全向上対策工事を実施中。ロビーサ1、2号機は2030年頃に運転期間が50年に達するため、運転延長するか協議中である。建設中のオルキルオト3号機は、来年、発電開始予定である。また2015年にFennovoima(フェノヴォイマ)社が建設許可申請を行ったHanhikivi(ハンヒキヴィ)第一原子力発電所(出力1200MWeロシア製加圧水型(VVER))が、来年、建設許可が下りる見込みである。
低中レベル放射性廃棄物処分場はオルキルオトとロビーサの両サイトにある。オルキルオトは1つの島で、この低中レベル放射性廃棄物処分場と高レベル放射性廃棄物の処分場と、使用済燃料の中間貯蔵施設と全ての放射性廃棄物管理を行うこととなる。法律で使用済燃料は輸出禁止のため、ロビーサでは処分場ができるまで使用済燃料を燃料プールで保管する。量が少ないためフィンランドでは再処理は行わない。最終処分場は2015年に建設許可がおり、Posiva社が建設中である。処分場は、深さ約400-450m 長さ60-70km、容量6500トン(ウラン換算)の計画である。

 

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【個別事例について】

 

Fortum社(電力会社)
 サミ・ハウタカンガス 原子力サービス 使用済核燃料・廃棄処理サービス部門長

サミ・ハウタカンガス 原子力サービス 使用済み核燃料・廃棄処理サービス部門長

Fortum社はフィンランド政府が50%以上の株を所有する電力会社である。政府戦略に従い、原子力だけでなく水力など他の電力も担い、スウェーデンや欧州全般、ロシア等に発電所を有している。ロビーサ原子力発電所1、2号機は関連会社のFortum power & Heat社が運転しており、ロビーサの低中レベル放射性廃棄物処分場の管理事業はFortum社が行なっている。一方、高レベル放射性廃棄物の処分については、オルキルオト原子力発電所を運転するTVO社と共に、実施主体としてPosiva社を設立した。将来、ロビーサ原子力発電所の使用済燃料は、Posiva社が建設するオルキルオトの最終処分場まで400kmを陸上輸送される。また、汚染水処理装置Nuresを開発し、福島第一原子力発電所のALPSシステムへ納入した実績がある。

 

Posiva社(地層処分の実施主体)
 ミカ・ポホヨネン Posiva Solutions代表取締役社長

ミカ・ポホヨネン Posiva Solutions代表取締役社長

Posiva社は、Fortum社とTVO社により、使用済燃料を安全で経済的に最終処分するために1995年に設立された。燃料集合体を鉄製容器および厚さ5cmの銅製容器の二重構造のキャニスターに封入し、緩衝材(ベントナイト)を充填し地下約400-500mの母岩に処分する。2016年よりオルキルオトに建設中の最終処分場は、最終的に2120年には深さ約400-450mで約2㎢、トンネル長さ約60-70kmとなる予定だが、区画ごとに建設し順次処分していく。
2004年にオンカロに地下研究施設を建設し、様々な研究開発を行っている。現在、地下420mに共同研究として実物大の実証試験(Full Scale In-Situ System Test(FISST))施設を2018年6月から建設予定。銅キャニスター内に燃料の崩壊熱を模擬したヒーターを内蔵し、シミュレーションやモデル化等を行う。2016年に子会社としてPosiva Solutionsを設立し、最終処分場の設計やコスト評価、地質調査、地層処分施設開発戦略の策定等を行っている。

 

STUK(放射性原子力安全機関:原子力規制機関)
 ユッシ・ヘイノネン 放射性廃棄物・保障措置規制担当課長

ユッシ・ヘイノネン 放射性廃棄物・保障措置規制担当課長

STUKの任務は、放射線の悪影響から人々や環境を守ることであり、Posiva社の業務の審査や安全評価を行い政府に提言する。規制当局は、新しい情報が入れば考慮し、他国の事例も参考にして、安全性に懸念がなければ計画を段階的に進める。
プロジェクト当初、候補地の選定において、理想主義的に、岩盤特性が最も優れた所でなければならないと思っていた。その後、規制当局、Posiva社、社会も考えが変わっていき、最良でなくても地質学的にある一定の要件を満たし安全であればよいとなり、社会的にも受容されるようになった。更に詳細な評価フェーズに入ると、我々は学術的観点でも詳しく調査・検討を行ったが、全てに関し詳細な議論となり収集がつかなくなった。このため方針を変更し、多くのことを同時に扱うのではなく安全性を第一とし、安全の担保に必要な事項について詳細な検討を行うこととした。
STUKの規制の成功要因は、1.意思決定時に積極的に関与し意思表示すること、2.規制のフレームワークの開発や積極的な対話等への参画、3.安全評価等を行う能力の開発である。
プロジェクト進捗には規制当局の役割が重要であり、その役割を明確化し、早期に積極的に実施主体や地域の対話に関与し、規制当局と話をしたい人全てと対話する。進めていくのだというコミットメントと勇気が重要である。計画の前進のために、規制当局はこの施設はなぜ良いといえるのか責任を持って述べることが必要である。

 

VTT(技術研究センター)
 マッティ・パルヤッカ エネルギー部門顧客担当マネージャー

マッティ・パルヤッカ エネルギー部門顧客担当マネージャー

VTTは幅広い業界の技術研究を行う研究センターであり、公的機関や民間企業、欧州機関との共同研究も行う。原子力分野では、発電所の運転や廃炉および放射性廃棄物処分管理等に関する研究開発を行っている。特に地層処分では、バリアシステムの設計開発、破砕帯での地下水の流れに関するモデリング、銅のキャニスターの微生物による腐食研究なども実施している。

 

FinNuclear Association(フィンランド原子力産業協会)
 ラウリ・ムラネン 会長

ラウリ・ムラネン 会長

74社が加盟し、原子力関係機関のネットワークの構築や政策提言等を行っている。データによると欧州ではフィンランド、スウェーデン、フランスがCO2の排出量が少なく、ドイツはCO2削減の成果がでていない。世界のエネルギー消費量は1965年から倍増している。一方、フィンランドでは2029年までに石炭利用をやめるべきとの提言があるが、総年間需要の6000TWhを原子力発電でまかなうのは大変である。その観点で、モジュール型の小型原子炉の可能性について研究が行われている。来年2月にフォーラムを開催するのでぜひ参加してほしい。

 

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【両国代表者による議論のまとめ】

 

フィンランド:ユッカ・シウコサーリ 駐日フィンランド大使

昨年、世耕経済産業大臣がフィンランドを訪問した際に、今回の共同セミナーを開催しようとの話となった。高レベル放射性廃棄物の処分は、現世代で行う必要がある。フィンランドは40年前より原子力発電所の運転を行っており、日本も同様に豊富な実績があると思っている。今後とも両国で協力してできることを考えていきたい。

 

日本:近藤 駿介 NUMO理事長

本セミナーでは、世界をリードするフィンランドの放射性廃棄物管理の事例や取り組みについて、政府及び産業界の皆様から包括的にお話いただき、感謝したい。日本では福島第一原子力発電所の事故の教訓に基づき、原子力施設のリスク管理を強化した。当面は原子力発電を利用する方針だが、人々が原子力関係者のリスク管理に対し不信感を抱いている。複雑な技術情報を伝えるにあたり、基本的には、明確で正確に、わかりやすく伝えることが重要である。また、政策選択は国民が主役と認識し、国やNUMOは国民と双方向の対話を繰り返すことが重要であると考える。
フィンランドと我が国でとても異なると感じた点は、規制当局が地域社会に対し、積極的に丁寧な説明を行い、社会の信頼を得ている点である。日本ではNUMOの取り組みがまだ初期段階ということもあり、いまだ地層処分の原子力安全規制に話題が至っていない。近い将来、この取り組みの安全確保の基本原則等が、規制当局から国民へ丁寧に説明される日が来るのが待ち遠しい。フィンランドから学ぶことは多く、学ぶ機会を持つことがとても大切であることから、こうした会合を日本で再び開催できればと思う。
最後まで多数の皆様にお聞きいただき、大変ありがたく感謝申し上げる。また懇切なご説明をいただいたフィンランドの皆様に厚く御礼申し上げる。

 

 両国代表者による議論のまとめ

 当日の模様(映像)

 

当日の映像は下記よりご覧いただけます。