最終処分先進国フィンランド × 日本 特別対談高レベル放射性廃棄物の最終処分地域理解のカギと
経済波及効果
原子力の最大限の活用や再生可能エネルギーの導入促進などを盛り込んだ「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」が2023年2月に閣議決定された。原子力分野では、安全性の確保を大前提に、原子力発電の再稼働を進めることとともに、再処理・廃炉・高レベル放射性廃棄物の最終処分プロセスの加速など、エネルギー自給率の向上が急務となっている。
最終処分は地下深くの安定した岩盤に閉じ込める「地層処分」が国際標準。最終処分事業の先進国であるフィンランドのエウラヨキ町のヴェサ・ラカニエミ町長と、日本の最終処分の実施主体、NUMOの理事長 山口彰が、最終処分事業の進展に不可欠な地域理解や地元経済への影響などについて議論した。
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フィンランド エウラヨキ町長
ヴェサ・ラカニエミ氏
教員や校長、自治体の教育部長などを経て、2017年より現職。学生時代に電力会社TVOのサマージョブに参加した経験が、今に生きているという。高レベル放射性廃棄物の最終処分問題を巡り、国外で講演する機会も多い。
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NUMO 理事長
山口 彰
1957年生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)や東京大学大学院工学系研究科教授を経て、2024年7月より現職。専門は原子炉工学、リスク評価など。
フィンランドも
複数の地域から処分場を選定
山口:原子力発電所は世界各国で稼働しており、高レベル放射性廃棄物の処分は世界共通の課題です。処分方法については、海洋や宇宙、氷床などが検討されてきましたが、「地層処分」が国際的に現時点で最も安全で実現可能な方法とされ、日本を含めほとんどの国で法律でも定められています。
日本は、処分地選定プロセスの最初の段階となる「文献調査」を実施中で、佐賀県の玄海町に今年、この調査を受け入れていただきました。また、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村では2020年から実施してきた文献調査の報告書(案)の審議が終了し、現在、法律に定める公表や説明会の実施に向け準備を進めています。こうした日本の現状と比べ、フィンランドは近い将来に処分場が稼働予定となっており、フロントランナーですね。
ラカニエミ氏:エウラヨキ町内のオルキルオト島の地下約450㍍の場所にある地層処分場「オンカロ」は現在、試験操業中で近い将来には稼働予定です。この島には1970年代から原子力発電所があり、今も3基が稼働中です。国際条約で高レベル放射性廃棄物は自国で処分することとなっており、発電所を運営する電力会社、TVOが80年代以降、調査地域(約100カ所)をリストアップした上で絞り込んでいき、専門家の見解や周辺住民との議論などを踏まえ、この島に建設することが決まりました。
最終処分場の受け入れを問う町議会の議決は賛成20、反対7でしたが、反対する人がいても十分に議論して結論を出すことが重要です。発電所が稼働して以降、TVOや最終処分の実施主体であるPosiva社は積極的に情報を公開し、住民側の不安払拭に努めてきました。また、フィンランドもエネルギー資源に乏しく、それに加えて寒冷な土地柄ゆえに、エネルギーの安定供給が重要視されています。原子力の必要性への認識は高く、長年にわたる歴史的な経緯や状況も、地域の理解を深めることにつながったと思います。
山口:ここ数年のエネルギー危機が影響し、日本でも今、原子力に対する否定的なイメージは低下傾向にあります。GXの実現に向け、最終処分も含めて考えなくてはならない。そのような中、文献調査を受け入れていただいた地域には感謝しています。フィンランド同様、少しでもより良い地質条件を選んで絞り込むためにも、さらに調査地域を拡げるべく、NUMOは文献調査や地層処分の安全性などについて全国各地で説明を尽くしていく所存です。
【フィンランドは
最終処分のフロントランナー】
【いずれの国も多くの地域から
処分地を絞り込んでいる】
処分場受け入れは
新ビジネス創出の好機
最終処分場を受け入れたことで、町に変化はあったのか。
ラカニエミ氏:原子力発電所や中間貯蔵施設に加え、最終処分場など「最も電気とのかかわりが強い町」というブランドが確立され、自治体のスローガンにもなっています。技術の知見が集まる場所として誇りに思っていますし、数多くの科学技術者等がオンカロを視察に訪れ、宿泊施設などは潤い、固定資産税など税収面もアップ。地元住民や自治体は恩恵を受けています。
最終処分は100年続く事業なので、この先、新たなビジネスの創出の機会にもなり、課題を抱える自治体にとっては大きなチャンスでもあります。
山口:「地元も恩恵」という町長のお話は印象的でした。英国の電力会社のEDFエナジーでは、雇用創出や教育等への投資額など発電所建設による地域経済への効果を積極的にアピールしています。日本でも原子燃料サイクル施設がある青森県六ヶ所村では、雇用創出や移住者増など地域経済に効果をもたらしているといった話を聞いたことがあります。
風評被害を懸念する声もありますが、調査期間中は放射性廃棄物を持ち込まないとともに、処分に当たっては生活環境に影響がないような対策も講じます。NUMOが行う最終処分事業も地域経済にフィンランドと同様の効果をもたらせると信じており、風評被害の不安払拭はもちろん、こうした経済効果ももっと伝えていく必要があると考えています。
様々な観点から
国民的な議論を
地震が多い日本だが、地層処分に影響はないのか。
山口:地震の原因となる断層活動は、長期にわたり同じ場所で繰り返し発生する傾向があり、入念な調査によって活断層を回避することは可能と考えています。また、地下深くの地震の揺れは地表付近と比べて小さくなることや、岩盤と一体となって揺れるため、廃棄体が破壊される可能性は極めて小さくなります。安全性の確保は最も重要なことですので、国内外の研究機関、関係機関と協力・連携し、技術開発を進めています。
ラカニエミ氏:エウラヨキ町には安定した岩盤があり、フィンランドでは地震が少なく、オルキルオト島周辺に活断層もありません。ただ、氷河による影響を心配する声はありましたが、その点についてはPosiva社の調査や専門家、安全規制機関であるSTUKの判断を信じています。やはり事業に対する安全性と信頼が何より大事ということ。透明性のある情報提供や、対話は不可欠です。
山口:NUMOの基本方針も「安全第一」「地域の信頼・共生の促進」「国民の理解・信頼を得る」の3つです。安全性への理解や信頼関係を醸成し、より良い地質条件等を選んで絞り込むためにも、多くの地域で文献調査を受け入れてもらえるようNUMOは取り組みを強化していきます。
最終処分の問題を身近に捉えるのはやや難しいかも知れませんが、電気を当たり前に使う日常を送る上では切り離せない問題でもあります。エネルギーの安定供給や地域活性化といった様々な観点から、ぜひ多くの方に議論を深めてもらえれば幸いです。
※日本経済新聞 2024年10月3日掲載
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シン・ちか通信
本メディアタイトルの「シン・ちか」は、地層処分が「深い地下に埋設する」ことから、「深(しん)」と「地下(ちか)」の組み合わせから発想した造語です。親しみやすさ、わかりやすさ、イメージしやすさを意識して「シン・ちか」と表記しました。「シン」には、「最新情報を届ける」ことや「親近感」「信頼」などの意味も込めています。