「スウェーデンの処分概念(KBS-3H)に関するセミナー」
開催日:2017年6月14日(水)・15日(木)
場 所:NUMO 会議室 東京
2017年6月14日、15日にスウェーデンの高レベル放射性廃棄物処分の実施主体であるSKB社の技術分野の専門家より、スウェーデンの処分方式(KBS-3H)の最新の技術開発状況等を紹介いただき、日本とスウェーデンの関係者にて意見交換を行いました。
なおSKB社が所有するエスポ地下岩盤研究施設では、この処分方式の技術開発に関する実規模試験が行われており、NUMOも2012-2013年に参画しています。(注1)
この機会に、NUMOが技術開発している処分概念PEM(Prefabricated Engineered Barrier System Module)方式や、それに類似したスウェーデンの処分概念の1つであるKBS-3H方式、セミナーの概要についてご紹介します。
KBS-3H方式とは?
KBS-3とは、SKB社によりスウェーデンで開発された高レベル放射性廃棄物の処分概念です。地層処分の方式には2つのタイプがあり、1つは処分孔が坑道から岩盤に対し垂直に掘られた竪置き方式で、もう1つは処分孔が水平に掘られている横置き方式です。
KBS-3概念において、垂直な処分孔に定置する竪置き方式はKBS-3V方式、水平な処分孔に定置する横置き方式はKBS-3H方式と呼ばれています。
スウェーデンでは、フォルスマルクにKBS-3概念を持つ使用済燃料の最終処分場が計画されており、2011年3月にSKB社は、建設・運転の許可申請書を放射線安全機関(SSM)及び環境裁判所に提出しました。また、フィンランドはスウェーデンと同様、KBS-3概念を採用することとしており、オルキルオトにあるポシヴァ社が建設しているオンカロの使用済燃料の最終処分場にKBS-3概念が適用されています。現在、スウェーデンおよびフィンランドとも、KBS-3V方式を基本の方式として検討しています。
KBS-3概念
一方で、SKB社は2001年より、KBS-3H方式がKBS-3V方式の代替方式として実現可能であるか、ポシヴァ社と共同で研究を行っています。
KBS-3H方式およびKBS-3V方式とも、使用済燃料は内側が鋳鉄製で外側が銅製の容器(キャニスタ)に封入され、このキャニスタはベントナイト製の緩衝材で覆われ、力学的及び化学的に安定した岩盤の地層処分場に定置(処分)されます。
水平なKBS-3H方式では、キャニスタと緩衝材は、その外側をチタン製の有孔シェルにより一体として保持され、スーパーコンテナ(下図)として組み立てられます。そして最長300mの水平な処分坑道に30体を上限としてスーパーコンテナが定置されます。スーパーコンテナとスーパーコンテナの間には、ベントナイトのブロックが設置されます。一方、KBS-3V方式では、処分坑道の床面に対し垂直にキャニスタごとに処分孔を堀り、スーパーコンテナを用いず、キャニスタをベントナイトの緩衝材で覆い定置します。このため、KBS-3H方式の岩盤の掘削量は、KBS-3V方式に比べて少なく、このことは定置後に坑道を埋め戻す量も、KBS-3H方式のほうがKBS-3V方式に比べて少なくなることを意味します。
KBS-3H方式 のスーパーコンテナの概要図
KBS-3Hの設計例
PEM(Prefabricated Engineered Barrier System Module)方式とは?
NUMOでは、水平な処分孔に定置する横置き方式では、品質管理の容易性や地下の環境下における作業性の観点から、PEM(Prefabricated Engineered Barrier System Module)方式の技術開発を行っています。PEM方式とは、あらかじめ地上施設にて、ガラス固化体を封入したオーバーパックとベントナイト製の緩衝材を鋼製の容器(PEM容器)に格納し、このモジュールを地下施設に搬送し、水平な処分坑道に横置きに定置する方法です。
このPEM方式は、地下と比べ空間的に制約のない地上施設でモジュールをあらかじめ製作できるため、品質向上や効率改善につながり、また高湿度な地下環境に対する感受性も低く、定置作業のスピードもより速くなります。
PEM(Prefabricated Engineered Barrier System Module)方式
PEM方式による遠隔操作による処分イメージ
KBS-3Hセミナーの概要
・セミナーの目的
NUMOは、水平な処分孔に定置する横置き方式では、品質管理の容易性や地下環境における作業性の観点から、PEM方式の技術開発を行っています。スウェーデンのSKB社の処分概念KBS-3のうち、PEM方式と同じ横置き方式のKBS-3H方式について、最新の技術開発状況の共有や関係者間による横置き方式の技術に関する意見交換等を目的として、KBS-3Hセミナーを開催しました。
・KBS-3H方式に関する研究開発の状況
スウェーデンではKBS-3Vの代替方式の実現性検討のため、2001年よりKBS-3H方式の研究開発実証(RD&D)プログラムが策定されました。SKB社はポシヴァ社と協力して、KBS-3H方式に関する掘削方法やベントナイトの緩衝材、プラグ、容器等の研究開発および実証試験、製造方法の実現性検討などを行っています。研究開発実証プログラムの一環として、2013年よりSKB社が所有するエスポ地下岩盤研究施設の地下220m地点の長さ95mの坑道において、KBS-3H方式の技術に係る実規模試験Multi Purpose Test (MPT)が行われています。NUMOもMPTのいくつかの実証試験に参画しました。(注1)
近年の実証試験としては、KBS-3Hのプロジェクトは2016年秋より、スーパーコンテナを組立てて坑道に定置する際のスーパーコンテナ内のベントナイト緩衝材への熱影響を評価するための実規模ヒーターテストを行っています。また、KBS-3H方式はベントナイトの緩衝材が化学的侵食に敏感な可能性もあり、それに続いて地下水に含まれる硫化物による銅の腐食も考えられます。この数年に関しては、技術開発は竪置き方式のシステムについて完成させ、工業化し最適化することに焦点があてられることになります。化学的侵食に関する更なる研究は、継続して行われる予定です。SKB社は、今後KBS-3H方式の安全性に関する課題が解決されれば、KBS-3H方式の経済的優位性が方針変更に値するか改めて評価する意向です。
スウェーデン エスポ地下岩盤研究施設におけるKBS-3H実規模実証試験
・横置き方式の技術に関する意見交換
セミナーでは、SKB社の技術分野の専門家より、スウェーデンの処分概念KBS-3のうち、NUMOが開発した概念であるPEM方式と同じ横置き方式であるKBS-3H方式に関する研究開発の最新状況や課題、今後の取り組みなどについて情報を提供いただきました。
本セミナーは協定活動の一環としてNUMOが開催したことから、SKB社およびNUMOの関係者だけでなく、国内の協定関係機関からも多くの関係者が出席しました。KBS-3H方式の最近の研究開発状況や、安全性の確保に関する考え方等が共有されました。また、参加者間において、NUMOが技術開発したPEM方式とKBS-3H方式との比較などを含め、横置きの処分方式の技術に関する意見交換が活発に行われました。
NUMOの今後の取り組み
スウェーデンは、エストハンマル自治体のフォルスマルクに処分場を建設する計画です。使用済燃料の入ったキャニスタは、地下約500mの深さの 19億年前の花崗岩に処分される予定です。処分場は、銅製キャニスタ約6,000本分、使用済燃料で約12,000トン分を定置する容量があります。
一方、日本は、原子力発電所の使用済燃料を再処理し、ガラス固化された高レベル放射性廃棄物を地層処分する計画です。日本は地下300m以上の深さの安定した岩盤に40,000本以上のガラス固化体が処分できる処分場を計画しています。
使用済燃料の処分方法とガラス固化体での処分方法では、発生する高レベル放射性廃棄物の物量や発熱量も異なります。
このため、処分場の設計や処分方法は、他の国の方式を単純に採用するのではなく、自分の国の地質の特性やその国の要件を踏まえて検討が行われる必要があります。
一方、地層処分が高レベル放射性廃棄物の処分方法として最も適しており、実現可能性がある処分方法である、という国際社会での共通認識があります。多くの国における地層処分の概念は、金属製の容器とベントナイトの緩衝材からなる人工バリアと、地層という天然バリアからなる多重バリアシステムを有している点など、共通しています。
技術開発や効果的手法の情報を共有することは、日本での高レベル放射性廃棄物の地層処分の実現を確実にすることに寄与します。
NUMOは今後も引き続き、SKB社や他の国の実施主体と情報共有を図り、安全を最優先に、日本の地層処分の実現に向け、国内の関係機関と協力して地層処分の研究開発を進めていきます。
スウェーデン エスポ地下岩盤研究施設
(注1)
エスポ地下岩盤研究施設で行われたMulti Purpose Test (MPT) のうち、NUMOが参画した試験に関する詳しい内容については、NUMO技術開発成果報告会2014(2014年6月19日(木)開催)においてご報告した以下の資料をご参照ください。
テーマ2:技術の保有・移転に向けた関係機関との共同研究
人工バリア施工技術適用試験の実施 -SKBとの共同研究-
https://www.numo.or.jp/technology/techpublicity/lecture/pdf/houkokukai20140619.pdf
以 上