「地層処分に係る社会的側面に関する研究支援事業Ⅱ」採択研究の成果報告会

「地層処分事業に係る社会的側面に関する研究支援事業Ⅱ」採択研究の成果報告会が開催されました

開催日:
2022年2月28日(月)13:00~17:30(オンライン開催)
主催:
エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社

地層処分事業に係る社会的側面に関する研究(8研究の成果報告)(PDF:1.5MB)PDF

※本資料は、成果報告会申込時に配布された予稿集に成果報告会の様子を追加したものです。

地層処分に関する国民との相互理解を深め、地層処分事業を円滑に推進するためには、地層処分に関する技術開発の推進だけではなく社会的側面に関する研究が継続的に行われることが重要であり、NUMOでは人文社会系の多岐に亘る分野の研究を支援して研究の活性化を促し、その成果の蓄積に努めるとともに広く社会に発信しています。
このたび、2020~2021年度の支援対象である8件の研究成果が取りまとまったことを受け、本事業の運営の委託先であるエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社が以下のとおり成果報告会を開催いたしました。

当日は、「社会的側面に関する研究支援Ⅱ 運営委員会」の原田委員長より事業概要についてご説明いただいた後、研究者によるパワーポイント資料を用いた研究成果の発表及び会場からの質問への回答が行われました。

当日の映像

当日のプログラムと資料

13:00~13:05 諸連絡

13:05~13:15 開会挨拶・事業概要説明

13:15~14:10 セッションⅠ 研究発表・質疑応答

地層処分施設のための段階的・協調的アプローチの実践にむけた実証的研究:国民的議論の公正な進め方
野波 寬 氏 (関西学院大学社会学部 教授)

発表資料(PDF:1.6MB)PDF 成果報告書(PDF:3.8MB)PDF

情報・コミュニケーションによる選好変容と世論形成に関する社会科学的分析
高嶋 隆太 氏 (東京理科大学理工学部経営工学科 教授)

発表資料(PDF:1.1MB)PDF 成果報告書(PDF:1.9MB)PDF

14:10~14:20 休憩

14:20~15:15 セッションⅡ 研究発表・質疑応答

地層処分の超長期的影響に関する世代間正義と民主的合意形成の法哲学的・法政策論的基盤構築
吉良 貴之 氏 (宇都宮共和大学シティライフ学部 講師)

発表資料(PDF:1MB)PDF 成果報告書(PDF:2.7MB)PDF

「パートナーシップ型」合意形成モデルによる地層処分事業における考慮要素の特定をめぐる法的研究
友岡 史仁 氏 (日本大学法学部 教授)

発表資料(PDF:854KB)PDF 成果報告書(PDF:671KB)PDF

15:15~15:25 休憩

15:25~16:20 セッションⅢ 研究発表・質疑応答

社会啓発と科学コミュニケーター育成を念頭に置いた「地層処分事業」への知的興味を向上させる土木教育プログラムの研究
小峯 秀雄 氏 (早稲田大学理工学術院創造理工学部 教授)

発表資料(PDF:3.2MB)PDF 成果報告書(PDF:2.7MB)PDF

受容から合意に至るArgumentデザインとその検証
萱野 貴広 氏 (静岡大学教育学部理科教育教室 教務職員)

発表資料(PDF:1.1MB)PDF 成果報告書(PDF:2.8MB)PDF

16:20~16:30 休憩

16:30~17:25 セッションⅣ 研究発表・質疑応答

NIMBY施設に対する態度形成過程の実証的分析:個人と社会、受益者と受苦者の意識の相違に着目して
小松崎 俊作 氏 (東京大学大学院工学系研究科 准教授)

発表資料(PDF:2.25MB)PDF 成果報告書(PDF:2.08MB)PDF

環境文学にみる対話のパラダイム:地層処分を話し合う<共通語>を求めて
結城 正美 氏 (青山学院大学文学部 教授)
※当日ご欠席された結城氏の報告については、事前に撮影した映像を使用しております。

発表資料(PDF:888KB)PDF 成果報告書(PDF:491KB)PDF

17:25~17:30 閉会挨拶

参加者からの質問への回答

参加者からいただいた質問の中から、原田委員長がとりあげた質問について、研究者に回答していただきました。
なお、いただいた質問については、当日紹介されなかったものも含め、今後の研究に活かしていただくために、後日、研究者の手元に届けられる旨も説明されました。

当日の映像

質疑概要※回答は各研究者に確認したうえで掲載しております。

■ セッションⅠ

1質問票への回答

地層処分施設のための段階的・協調的アプローチの実践にむけた実証的研究:国民的議論の公正な進め方
野波 寬 氏 (関西学院大学社会学部 教授)

当事者と非当事者の境界

(質問)当事者と非当事者という境界はどこにあるのか。最終処分場からの距離が一つの指標かもしれないが、それに限らないのではないか。

(野波氏)地理的な距離等は、まったく問題にならない。地理的な距離が当事者の決め手になるのではなく、地層処分場を建設するかしないかのいずれかの決定が下された時、それによって私的な利益にどれだけの悪影響を受けるかが決め手となる。 地層処分場の建設は、集団全体、社会全体の利益になることは確かであるが、それを上回るような私的な損害、例えば地元住民を想定した場合には、地層処分場が社会的に利益をもたらすものであるにせよ、地層処分場が建設された地域では、風評被害や地域の分裂・断裂等の社会的・経済的な様々な被害を被ることにはなる。このように、公的な利益よりも私的な不利益のほうが大きくなってしまう人々のことを、ここでは当事者と定義している。この定義に従うと、距離が遠いか近いかというよりも、立地地域の人が当事者になるということになる。 ただし、これ以外にももう一つの観点がある。立地地域の人々は地層処分場が建てられた時に不利益を被るが、建設されなかった時に不利益を被るのは言うまでもなく将来世代である。将来世代と対比すると、現役世代は地層処分場を建設しない限りは、様々な費用を将来世代に先送りをすることができるので、現役世代は被害を一切受けず利益を得ることができ、当事者にはならない。現役世代と相対的に見た場合には、将来世代は利益よりも不利益のほうが大きくなるため、その意味で将来世代は、地層処分場が建設されなかった時の被害者、当事者と言うことができる。 このように、距離ではなく、どれほどの利益や不利益を受けることになるか、そのバランスはどうなっているのかが、当事者を定義する基準となっている。

将来世代の範囲

(質問)ここで言う将来世代とは、地層処分場が立地する地域の将来世代を指すのか。それとも、社会全体を捉えて将来世代と言うのか。

(野波氏)本研究では、地層処分場が立地する特定地域の将来世代ではなく、社会全体の人々、例えば、日本という国で言えば、日本全体の次の世代やさらにその次や次の次の世代の人々といった、社会全体の人々を捉えて将来世代と言っている。特定の地域の人を将来世代としない理由としては、あくまで現役世代との対比で将来世代を捉えているためである。 先程説明したとおり、当事者の定義として、被害と利益をどのくらい受けるか、そのバランスがどうなっているかという点が、当事者を決める基準となっている。その時に、特定地域の当事者ということになると、我々という社会全体で見た場合の将来世代のほかに、将来の世代の中で、さらに他の地域と立地地域という別の比較基準が入り、定義が非常にややこしくなる。 そもそも、地層処分場に関するすべての研究は、今地層処分場を建設し、将来において特定の被害を被るような人々をつくらないようにすべきという視点に基づいているはずである。そのため、社会的に将来のすべての人々が、我々に比べて、当事者、すなわち被害者になる事態を避けるべきという視点から考えると、我々と対比した時に社会全体の未来の人々はすべて、当事者としての将来世代と定義づけられる。このような理由から、社会全体での将来世代をここで言う将来世代と位置付けている。

放射性廃棄物の区分

(質問)報告の中にあった放射性廃棄物の地層処分とは、高レベル、低レベルといったどのような区分を想定しているのか。

(野波氏)研究代表者及び研究協力者の全員が、高レベル放射性廃棄物の処分場について取り上げて調査、実験をしている。低レベル放射性廃棄物やその処分場に関しては、調査、実験は実施していない。

1質問票への回答

情報・コミュニケーションによる選好変容と世論形成に関する社会科学的分析
高嶋 隆太 氏 (東京理科大学理工学部経営工学科 教授)

「近さ」の指標

(質問)NIMBY(Not In My Backyard)で「自分の近くに持ってきてほしくない」という際の「近く」にあたる指標は、どのくらいの距離と捉えたらよいか。

(高嶋氏)高レベル放射性廃棄物に関するコンジョイント分析で用いた属性の距離は、「5km未満」、「5km以上30km未満」、「30km以上」という3つの属性を用いており、実験に参加した人が考えているNIMBYの範囲がどこなのかについて、定量的に分析することを目指したものである。発表資料6頁の左図の右から3番目の項目が「処分場との距離」となっているが、平均的には、距離が離れれば離れるほど満足度が高く(=近くて嫌だと感じにくく)、逆に言えば、近いと満足度が低く(=近くて嫌だと感じやすく)なるという結果が出ている。当該箇所は、まさに個人によってNIMBYの感じ方は違うということを示している。

処置群とコントロール群に提供した情報

(質問)原子力や最終処分の情報を与えると理解度が増すという結果が得られたとのことだが、処置群とコントロール群(対照群)のうち、処置群にはどのような形で情報を提供したのか。その違いを教えてほしい。

(高嶋氏)提供した情報については、本事業の成果報告書にはすべて示しているが、例えば、発表資料7頁の右下にある主要国の一次エネルギー自給率の図などが該当する。インターネット調査の際には、9頁に記載の「エネルギー自給率」、「地球温暖化」等の情報を示した。情報はできる限り図で示すようにし、電気事業連合会や資源エネルギー庁、NUMOの図など、皆さんが簡単に見つけることができるものを使用し、説明はできるだけ1~2行、多くても3行として、各ページでそれぞれの情報を順々に示した。簡単な説明と図を見たことで、どのように意見が変わったかを調べた。

■ セッションⅡ

1質問票への回答

地層処分の超長期的影響に関する世代間正義と民主的合意形成の法哲学的・法政策論的基盤構築
吉良 貴之 氏 (宇都宮共和大学シティライフ学部 講師)

核燃料サイクルが変更になるとき

(質問)現在の高レベル放射性廃棄物の定義は再処理を前提にしているが、将来的にこの定義が揺らぐ可能性も考慮する必要があるのではないか。本研究では、核燃料サイクルが変更になる可能性をどのように考慮しているか。

(吉良氏)高レベル放射性廃棄物の再処理等の現状のプロセスに関する専門的な部分の判断は難しいため、本研究ではあくまで理念的な整理を行っている。現状の枠組みが揺るがないのかという点に関しては、例えば汚染者負担の原則を持ち出し、我々が使ったものは我々で処理するという閉じたやり方が世代間正義の理念として正しいと考える場合には、現状を前提としたやり方になるものと考えられる。それに対し、科学技術の発展可能性を強調して将来世代の自己決定の可能性を残す方が世代間正義に適うと考える立場に立つならば、必ずしも現状のスキームに固定化する必要はなく、変わりうるとしたらどういったやり方が良いのかという問題設定になると認識している。大きく分けて、こうした2つの理念で研究を進めてきた。

時間の経過による価値観・倫理観の変化

(質問)高レベル放射性廃棄物の最終処分は数千年から数万年という長期の世代にまたがるものであり、時間の経過で価値観や倫理観が変わっていく可能性があるが、その点はどのように考慮するべきと考えるか。

(吉良氏)ご指摘の通り、数万年規模となると価値観の変化をどう捉えるかは大きな問題となる。1つ目の考え方として、人々の価値観として将来の人々が「何を望むのか」は推測することが難しいが、「何を嫌がるか、被害と考えるか」については、人間という生物的条件が変わらないとすれば、根本的には変化がないとして前提としてしまうやり方がある。もし、この手法が楽観的過ぎるという場合には、価値観の変化を織り込み済みの制度構想を考えていく必要がある。興味深い例として、フィンランドで建設中の処分場でなされている議論では、将来世代が価値のある物品が埋まっていることを期待して掘削することが懸念されている。日本ではあまり議論されていない論点であるが、フィンランドでは将来世代が全く別の人々かもしれないという認識がある。これに対して我々は何ができるのかというと、まずは現役世代がここに埋めてある物は危険なものかもしれないという情報を残し、将来世代の知る権利に対応する形で情報を残す・公開するスキームを構築することで価値観の変化に対応する法制度構想が挙げられる。

将来世代に情報を残す方法

(質問)文書の保存方法や言語の変化なども踏まえて、かなり先の将来世代にどのように情報を残すのがよいと考えるか。

(吉良氏)言語というものは移り変わっていくものであり、数万年後に日本の地に住む人々が日本語を解するという前提は置きにくく、様々なチャンネルで情報を残しておくことが考えられる。まずは言語が基本となるが、フィンランドの例では危険を示す記号を設置することが検討されている。言語と比較すると、記号の方が人間の認知の変化が少ないという研究もある。言語的なアプローチに加え、記号的なアプローチなどたくさんのチャンネルを作っていくことで、将来世代に伝わる可能性を増やしていくやり方が考えられる。

1質問票への回答

「パートナーシップ型」合意形成モデルによる地層処分事業における考慮要素の特定をめぐる法的研究
友岡 史仁 氏 (日本大学法学部 教授)

「パートナーシップ型」の英国以外の例

(質問)「パートナーシップ型」合意形成モデルについて詳細に教えてほしい。本研究ではイギリスのものをベースにしていると思われるが、他にノルウェーやフィンランドにも存在するのか、存在するとすればどのような違いがあるか。

(友岡氏)イギリス以外の国との比較については、本研究ではイギリスのみに対象を絞っていたため実施していない。イギリスがパートナーシップをどう捉えているかについては、2008年白書の段階と2018年の改訂文書の段階で内容に差が見られ、「パートナーシップ型」の定義の難しさにもつながっている。2008年白書の段階では、事業者や判断権を有する自治体、労働者団体や環境団体等の幅広い利害関係のある方が参加しており、合意形成のやり方として非常に当事者が多かった。これが、経験則を通じて構成員が少し変わってきたというところがあり、2018年改訂文書ではワーキンググループを設置するとされており、現在イギリスの複数地域で進められている。ワーキンググループでの議論後にパートナーシップが設立され、地方議会の代表者、事業者、商工会議所の会長等がメンバーとなっている。なお、パートナーシップの参加者は公募によって選ばれている。住民への説明という観点から、住民参加を容易にできるような議論がワーキンググループで先に行われたのではないかという印象を持っている。パートナーシップの議論でフォーマル化する前にしっかり議論しておこうという意図がここから見えてくると考えている。

「パートナーシップ型」の中で関与できる範囲

(質問)「パートナーシップ型」の仕組みとして処分事業自体に関わるPPP(Private Public Partnership)があるが、イギリスのパートナーシップの中で関与できる事業の範囲はどこまでか。

(友岡氏)イギリスでは処分事業をビジネスとして捉える見方も強く、重要な点である。地層処分は基本的には国の事業であり、事業の主体となる事業者は会社形態をとっているが、政府の政策を反映する事業体として構成されている。その事業者に対し意見を言うことについては、2018年の改訂文書の段階では、ワーキンググループに事業者が含まれており、事業者を含めてパートナーシップを構成するという段階にきていると考えると、その事業経営に住民意見を反映することについて、現時点ではフォーマルな法的な内容は見えてきていないが、事業者がどのような形で参画しているのか、意見の形成が事業者に対してもう少し細かくなされるのかということは、このパートナーシップ型という枠組み以上に、イギリスにおける地層処分事業そのものに関する課題ではないかと思うので、今後の研究課題としたい。

望ましい合意形成過程を得るための取組み

(質問)ご報告の中で地層処分の処分地選定のプロセスや地層処分そのものへの住民理解が乏しいとのことだったが、これらの結果を踏まえて、望ましい合意形成過程を得るための具体的な取組みについて得られた知見は何か。

(友岡氏)住民理解が十分でなかった点については、成功・失敗との捉え方だけではなく、経験則として住民の意思形成や自治体の事業に対する考え方の実態を把握するということが研究のテーマだった。他方で、どのような具体的な取組みをすると成功するのかという視点が重要だという意識もあり、カンブリア州の反対の反対事例と所感を紹介したが、ここから得られるものもあったと思う。当初の研究計画では現地へのインタビューを予定していたが、新型コロナの影響で実施ができなかった。仮にインタビューが実現していたら、もっと違った要素が分かってきたのではないかと思う。ただ、例えば「撤退の権利」については2008年白書にも2018年改訂文書にも書かれているが、法律という形で記載が無かった点については地元の方々が問題意識を持っており、不安の要素になっているのではないかと推測している。この不安を取り除くという点については、最終段階で自由に判断ができる状況を作るという部分で、イギリスではパートナーシップに法的に権限を与えたので、今後10~15年の経過を追っていくことが重要と考えている。

撤退の権利

(質問)イギリスの例が現在の結果に繋がった一因として撤退の権利が法令化されていなかったことが想定されるが、法令化されていた場合にはどうなると考えるか。

(友岡氏)イギリスでは土地利用法制という次の段階があり、ここでは法的に厳密に手続きを進めていくということを見越しているのではないかと思う。インフォーマルとフォーマルな段階をイギリスでは明確に区別しているのではないかと推測しているが、今後の研究課題である。

■ セッションⅢ

1質問票への回答

社会啓発と科学コミュニケーター育成を念頭に置いた「地層処分事業」への知的興味を向上させる土木教育プログラムの研究
小峯 秀雄 氏 (早稲田大学理工学術院創造理工学部 教授)

作成した教材の効果

(質問)作成した教材を用いた授業を実施し、具体的に得られた効果はどのようなものか。

(小峯氏)定量的に示すことはできないが、オープンキャンパスにて興味・関心を持ってもらったと感じている。学生の意識の変化の一例として、早稲田大学の学生がインタビュー(https://www.cse.sci.waseda.ac.jp/canvaslife/interview/iwasakimitsuki/) に「私たちは常に災害を経験している世代であり、防災に興味を持つことは当然のことであった。 しかし、原子力発電所の事故を土木の対象と考えるようになったのは、授業の中で高レベル放射性廃棄物の地層処分に触れたことがきっかけだった」と回答していた。多くの人に浅く広く知ってもらうことも重要だが、次世代を担う人材を育てるという観点では、工学的な要素も入れて教材を作ることも大切なのではないかと考えており、効果はあったものと捉えている。

作成した教材の優れている点

(質問)NUMO自身が作成している既存の教材と比較して、今回作成した教材の優れている点はどのような部分だと考えているか。

(小峯氏)NUMOの教材は一般の方向けの内容である。一方、土木専攻の大学生が地層処分についてより詳しく学びたいと考えた場合、現状では、NUMO教材の次の資料は、極めて高いレベルの学術論文になってしまう。実際に本学の学生から、大学1、2年生レベルで工学にも寄った適切な教材は無いかとの問いかけがあったことが、本研究の起点になっている。理工系の学問をこれから学んでいく人に対して関心を喚起できるような教材をという視点で制作した。

知識の獲得等についてのモデル

(質問)教材を用いた授業を行うにあたって、学生の知識の獲得や「受容」、「合意」のプロセスに対してどのようなモデルを想定していたか。

(小峯氏)土木工学の研究者の立場として関わっており、まずは再現性の高い数学・物理の法則に基づくとこうであるということが論理的に理解できていること、そして、それに対する相場観を身につけることを目指している。その意味で、計算することに加えて、実験による学習が重要と考えている。「合意」と同義かは分からないが、工学技術者として腑に落ちる感覚を持てないと、自分が設計・施行した構造物に自信を持てず、例えば住民に十分な説明をすることもできないと考えている。

1質問票への回答

受容から合意に至るArgumentデザインとその検証
萱野 貴広 氏 (静岡大学教育学部理科教育教室 教務職員)

「Argument」とは

(質問)「Argument」を研究の中でどのように捉えているか、説明してほしい。

(萱野氏)「Argument」には統一した和訳や定義が無い状態である。本研究では、「Argument」を「科学的なデータや根拠を基に、相手を説得し納得を促すための一連の言語活動」と位置付けている。言葉に出す、文字にするというだけではなく、自分自身との議論・問いかけにより、自分自身の答えをメタ認知的に検討・判断するような、個のArgumentも重視している。アメリカの研究者からは、Discussionは自分の考えを相手に伝えることで必ずしも結論を出す必要は無い、Argumentは必ず何らかの結論を出すことをゴールとしている、というアドバイスもいただいている。

授業を実施する上での前提

(質問)地層処分の問題では、授業を行う側が提示する科学的根拠の範囲によって、生徒側の判断が大きく変わると考えられる。その観点で、例えば宿題などの授業外学習の場を設けたのかなど、授業を実施する上での前提はどのように設定したか。

(萱野氏)基本的に本研究授業は理科と社会の単元学習の一部として実施した。例えば、理科では「科学技術と人間」の単元においてエネルギーや原子力の問題を扱うが、その中で学習指導要領でいう現代的諸課題の1つとして高レベル放射性廃棄物を取り上げた。社会科では、「日本の地域の特徴」や「災害・防災」、「持続可能な社会に向けて」といった単元の中でこの問題を取り上げた。また一部の学校では、学校の統廃合をきっかけとして、高レベル放射性廃棄物の議論の場を設定し交流を図った。一人でも多くの生徒に高レベル放射性廃棄物について考える機会を持ってほしいと考え、iPadにインストールしたゲームとして、タブレットの活用による研究授業の実践を学校にお願いした。授業への導入においては、単元学習の邪魔にならないよう現場の教員の希望に沿う形で進めていただけるようにお任せした。生徒の判断が変わるかどうかという点については、このゲームにはかなり多くの情報が含まれており、元々は海外で高レベル放射性廃棄物の専門家がトレーニングする際に利用したものを、中学生が1時間の授業の中で情報を理解できるよう簡略化したものである。それでも、含まれる情報は標高や、水深、地層、さらに社会環境や地域の現状など多岐にわたっている。どの情報を自分が選択するかについては、個々の生徒の特徴としてすべて認めており、グループで議論する際、自分がどの情報を基に判断したかを説明し、また別の生徒が何を踏まえて判断したのかを聞くことで、様々な判断要素があることを認知させることも狙いの一つである。そのため、何の情報を重視するのかというのは生徒の判断に任せた。

授業の実施者

(質問)授業の実施者はどのような人か。中立の立場の人でなければ、結論ありきの誘導になる懸念も想定される。

(萱野氏)大学では私自身が、高校では理科の教員、中学校では理科・社会科の担当教員が行った。1校のみ、高レベル放射性廃棄物の基礎的な知識を伝えるために私自身が参加したが、基本は現場の教員が授業を行っている。

教員の高レベル放射性廃棄物に関する知識量

(質問)中学校、高校の現場の教員の高レベル放射性廃棄物に関する知識はどの程度か。意見交換などは実施したか。

(萱野氏)資源エネルギー庁主催のエネルギー教育支援事業の地域会議に参加してもらった教員を対象にしており、3年程前からセミナーやシンポジウムを通して交流がある。理科の教員に関しては、これまでに実施した研究に参加・協力していただいており、放射線に関する知識を有していて、その指導の経験知も高い。深い議論ができる関係にある。社会科の教員も、NUMOの教育支援事業を受けた静岡県エネルギー環境教育研究会に属しており高い知見と指導経験を持っている。それ以外の教員はそこまでの知識はお持ちではないのではないか。

■セッションⅣ

1質問票への回答

NIMBY施設に対する態度形成過程の実証的分析:個人と社会、受益者と受苦者の意識の相違に着目して
小松崎 俊作 氏 (東京大学大学院工学系研究科 准教授)

判断の指標

(質問)発表の前半に、「強い否定的な態度を持った方の態度は情動的な姿勢によるもの」というお話があったが、どういった指標を用いて判断したのか。

(小松崎氏)態度形成を二重過程モデル(デュアルプロセスモデル)で想定しており、このモデルでは、人の態度形成には「中心ルート」と「周辺ルート」がある。「中心ルート」は「様々な情報を精査して可か非かを決めるモデル」であり、「中心ルート」を通っていれば様々な社会的要因や政治的要因、行政的要因等を細かく見て賛否を決める判断をする一方で、周辺ルートを通っている場合、前述の要素(社会的要因、政治的要因、行政的要因等)に関わらず賛成・反対を判断するという態度形成モデルである。本研究で示されたことは、否定的な態度イコール情動的ということではなく、強い否定的態度を持っている方は、中心ルートを通っていれば判断する際に用いるであろう手がかり(情報)をほぼ判断に用いていない(それを気にせずに賛否を決められている)。したがって、この態度形成を合理的な判断かそうでないと捉えるかという観点では、経済的概念における合理的判断では必ずしもないということが示唆されるという意味で、単純に情動的という表現を用いたものであり、価値判断を入れない表現としてご理解いただきたい。

オンラインで実施したことによるノイズ・バイアス

(質問)コロナ禍での研究ということで反応時間の研究はオンラインで実施されたが、仮に対面での実験ができた場合と比較して、どういったノイズやバイアスが存在すると考えるか。

(小松崎氏)潜在的な態度について明らかにすることが社会的にどれくらい望ましいことかの議論はあるが、様々なエビデンスによってNIMBY的な態度の推定をしたいと考えていた。今回、IAT(潜在連合テスト)によって例えば特定の地域と原子力に対する認識が結び付けられていることや原子力と再生可能エネルギーの固定的な評価についての示唆は得られたと思うが、本当にその地域の人が潜在的に持っている認識であるか否かについては、この調査結果からだけでは言いきれない。これまでも社会調査を中心に研究を行ってきた中で、本当にその結果が本心を映し出しているかどうかは全く確証は持てないという点は大きな課題であった。今回もIATの結果としてはこうだと言えるが、それが本心かということは我々には全く確証が持てない。そこを打破するために、本来であれば脳科学的な反応の測定ができれば、もしかしたら、今まで非常に難しかった本心の推定ができたかもしれない部分があり、そこが残念であった。 また、調査の結果が、再生可能エネルギーは非常にポジティブな評価を得ていた一方で、原子力に関してはネガティブな意識とそれほど結び付けられていなかった。調査を開始した頃、ちょうど熱海で災害(地滑りによる土石流)が発生し、その場所が太陽光発電の用地として売買されていたと繰り返し報道されていたことから、再生可能エネルギーに対してもっとネガティブなイメージが持たれていると思っており、原子力はさらにネガティブなイメージと結びついていると思ったが、そうではなかったのは意外な結果であった。これも本当に本心なのかということを検証しないといけないと考えており、他の調査ではどのような結果が出ているかとのすり合わせが必要だと考えている。

1質問票への回答

環境文学にみる対話のパラダイム:地層処分を話し合う<共通語>を求めて
結城 正美 氏 (青山学院大学文学部 教授)

※結城氏については、成果報告会当日に紹介された質問に対して、後日文章で回答いただいた内容を掲載しております。

「共通語」が成立する対話のパラダイムを解明した手法

(質問)「共通語」が成立する対話のパラダイムを解明するにあたって、どのような手法を用い、その手法を用いることの妥当性が分からなかったので説明してほしい。

(結城氏)地層処分に関して異なる見解や立場を有する人たちが対等に話し合うことを可能とするパラダイムは「熟議民主主義」(ジェヌヴィエーヴ・フジ・ジョンション『核廃棄物と熟議民主主義』新泉社、2011年)のそれであると考えた。熟義民主主義においては、「視点の多元性」ならびに参加者が「自由かつ平等に」熟議の結果に貢献したという経緯が重視される。たとえ自分の望んだ結果にならなくても、熟議の過程により「道徳的な歩み寄り」が生まれる。こうした熟議が地層処分をめぐる対話のパラダイムを生ましめると考え、それに関わる「視点の多元性」として時間感覚の問題や「処分」という問題に潜む価値観などいくつかの問題系を示した。

「共通語」の範囲

(質問)「共通語」とは、どこまでの範囲の、どういう対象の「共通語」なのか。いわゆるステークホルダーが対象なのか。

(結城氏)熟議の参加者を対象としており、これには専門家も非専門家も含まれる。『核廃棄物と熟議民主主義』に挙げられているカナダの核廃棄物管理の例では、専門家の知見を優位におくのではなく、非専門家の「人生経験、文化的実践、口述で伝承される知恵などの知識」を考量して熟議を進めることの重要性が述べられている。

ダブルスタンダード

(質問)地上より地下の方がテロ対策として安全だということになれば、地上では原子力発電所を動かすことはできないと考えられ、地層処分を推進する方はこの点には言及せずダブルスタンダードであるように思うが、文学ではどのように扱われているか。

(結城氏)地上よりも地下の方が安全であるという論理は原子力発電所にも当てはまるのではないかというご指摘はなるほどと思った。そのような視点は、今後、原発のあり方をめぐる議論を深める際に重要ではないかと思う。ご質問のダブルスタンダードに関しては、直接それに言及している例はすぐに思い浮かばないが、たとえば井上光晴の「輸送」など、原発のごみの地上輸送にまつわる危険性に焦点を当てた作品はある。

居住可能性

(質問)居住可能性というのは地上を対象に考えているのか。地下も含めて考えているのか。

(結城氏)地下も含めての居住可能性を考えている。地上における居住は、地下資源の採掘や地下の開発を伴うかたちで成り立っており、地下も含めて居住可能性を考察することが求められる。

当日の映像